ヤクザものシリーズ・お礼用SS
(実の日記・4・前編)


嫌な予感がしたのは、迎えに行く前に中里自ら遠藤の宿泊する客室に現れたからだ。

大阪旅行最終日、朝から遠藤の不運が始まった。

「組長・・・おはようございます。まだ出発時間には・・・」

「解ってる。用があんのはお前じゃねぇ。実は中か?」

普段ならば中里が遠藤の家や部屋に訪れるなどありえない。

ニタニタと笑む中里に嫌な予感を感じながらも、遠藤を押しどける彼に大人しく従った。

その後に続き入室した湯沢は、いつも以上に遠藤に怯えた様子で、そこからもまた嫌な予感を感じる。

現在は出発予定時間の30分前。

先に準備を済ませた遠藤に対し、常から動作の遅い実はまだ着替えの途中であった。

一つの事に集中してもゆっくりな手つきの実がようやく着替え終わるのを待ち、中里は晴れ晴れとした様子の実に声を掛けた。

「よ、実。元気そうだな」

「・・・あ、まなぶ。おはよー。あ、ゆざわ、せんせいもいるー」

「お、おはよう、実くん・・・ごめんね、朝から来ちゃって・・」

堂々とする中里の後ろで、湯沢は小さくなっている。

それだけには留まらず遠藤の視線から逃げるよう、中里に隠れていた。

どうやら湯沢が自分を怖がっているようだ、という事には気がついているが、それにしても今の状態は過剰すぎる。

これでは「疚しい事がある」と言わんばかりだ、と考えていた矢先、悲しい事に遠藤の読みは的中してしまった。

「実、日記つけてんだって?」

中里の一言が、まるで木霊のように遠藤の頭の中で響いた。

何故、それを知っているのだ。

そして、知ったからと言って、それを実に確認をしてどうするというのだ。

瞬時に青ざめた遠藤は、咄嗟に湯沢を睨み付けた。

「っヒ・・・」

一瞬視線がかち合った湯沢は、小さく声を上げたかと思うと俯いた。

そういう事か。

日記の存在を知った湯沢が中里にそれを告げたのだろう。

けれどただそれだけで湯沢が怯えるとも考え難く、ならば湯沢は遠藤が怒ると思うような事をしたか、知られたくないと考えているだろう事をしたのだろう。

一応は頭の良いらしい理系の医者だ。

つまるところ、湯沢は見てしまったのだろう、実が書いた赤裸々な日記を。

「うん。みのね、まいにちかいてる」

「そうか、えらいな。でな実、俺にもそれ見せてくれねぇか?」

まるで死刑宣告だ。

実の日記の内容を知られたくない。

だが湯沢に見せただろう実ならば中里にも断らないだろう。

そして、どんなに静止を訴えたくとも、遠藤がそうするなど出来る筈もないのであった。

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