ヤクザものシリーズ・お礼用SS
(実の夜食)



ただ普段よりも早くに帰宅出来た、というだけであっても、遠藤にとては十分に幸福な事であった。

まだ実が起きている時間に自宅に到着したのはいつぶりだろうか。

閉まりかけの菓子店に滑り込み購入した焼き菓子の詰まった袋を片手に、遠藤は機嫌よく玄関へ上がった。

「実ー。起きてるか?」

靴を乱雑に脱ぎメインルームへ続く仕切り扉を開くと、広々としたそこには長谷川と、そして実がソファーでテレビを見ている。

遠藤の早い帰宅を喜んでくれるとばかり思っていた。

けれど、振り返った実は、何故か不満そうな顔をしていた。

何か実の不興を買うような事をしたかと考えたけれど、咄嗟には何一つ思いつかない。

「どうした、実。土産も買ってきたぞ?」

理由は解らないまでも不機嫌そうな実の機嫌とりに実好みの菓子が詰まった袋を渡したが、実は中を見る事もなく受けとるとただそれを握り締めた。

実が菓子を喜ばないなんて、それこそ珍事だ。

「なんで、ゆた、はやくかえって、きたの?」

滅多に聞かないトゲトゲしい口調、ふと視線を外した実の一言に、遠藤はショックを隠しきれなかった。

それは、早く帰って来られては嫌だったという事なのだろうか。

実は己に会いたくなかったとでもいうのか、とマイナスな思考がグルグルと頭を回る。

悪口や愚痴の類を滅多に口にしない実なので、その実にそんな風に言われてしまう程の原因を探れど、やはり何も思いつかない。

呆然としてしまう遠藤がどうする事も出来ずにいると、視線を外したままもようやく顔を上げた実が遠藤の腕を掴み、グイグイと容赦なくその腕を引いた。

そして無言のままソファーから立ち上がったかと思うと、実は遠藤の腕を引っ張りダイニングテーブルへと連れて来た。

「なんだ、実?」

「みの、がんばったのに」

これ、と実はダイニングの上に置かれた大皿を示した。

そこにあったのは、乱雑に盛られた飯、何故こんな物が、と思っていたが、よくよく見るとただそれだけではない。

一見乱雑なようでありながら本来の姿はそうではないようで、これはいくつかの崩れた塊が置かれているのだと気がついた。

正直、言われなければそれが「そう」であるとは解らない姿だ。

だあ、飯・塊・実が頑張った、というキーワードを総合し、一か八かと遠藤はした。

「・・・おにぎり、か?実が作ったのか?」

「うん。みの、つくった」

半信半疑の予測が当たり、心底安堵の息を吐く。

ここで外していては実の機嫌が更に悪くなる事は必然であっただろう。

遠藤が正解した事で実の機嫌は幾分上昇したらしく、顔を上げると不満そうなままではあるが、遠藤の顔を見てくれるようになった。

「ゆた、おそくかえってくる、おもったのに。だからみの、ゆた、よるたべるのに、つくったのに。ゆた、はやくかえってきた」

唇を尖らせた実は、遠藤の胸を叩いた。

その程度遠藤にしてみれば痛くも痒くもないが、けれどまるで実の言葉がそこへ突き刺さるような錯覚に陥る。

なるほど実の不満の要因はそこであったのか。

そうしてみると、実の不機嫌さはいっそ愛情表現でなんとも愛らしい物に思えた。

「そうか、悪かったな、実。これは後で食うから、ありがとうな」

「・・・ほんと?ゆた、たべる?」

「あぁ。まだ家でも仕事があるんだ。だからその後にちゃんと食うからな」

「よかった。うん、ゆた、たべてね」

髪を梳いてやりながら言うと、実は満足そうにようやく笑みを浮かべた。

遠藤の胸にしがみ付き、頬を摺り寄せる姿は小動物を思わせ愛しさを増させる。

「せっかく早く帰って来たんだ、一緒に風呂でも入るか?」

「うん。みの、ゆたとおふろはいるー。ゆた、おふろでえっちする?」

「あぁ、それも良いな」

嬉しいと歓声を上げ、実は遠藤の手を取りバスルームへ向かった。

ゆっくりとした足取りで「はやく」と急かされれば、遠藤は実を諌めながらもにやける口元を抑えられない。

持ち帰りの仕事があるというのは嘘だが、実と一運動すれば腹も減り良い頃合となるだろう。

「飯食う前に実を食わなきゃな」

「う?みの?」

不思議そうに首を傾げる実。

実の服を脱がせながら、遠藤は待ちきれないとばかりに実の肌に食らい付いたのだった。






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