ヤクザものシリーズ・お礼用SS
(テーマパークのお土産)



関東から来阪していた霧島組の一行が帰った翌日。

香坂組あげての一大な義理事を無事終えその後処理に追われていた花岡は、香坂が社長を務めるVALORE社に出社するやいなや社長室へ呼び出されていた。

ただでさえ余計な仕事を押し付けられ時間が押しているというのに、これ以上なんだというのだ。

感情の読めない面持ちを冷淡に研ぎ澄まし、花岡はノックもそこそこに重厚な両開きの扉を押し開いた。

「何ですか。私は忙しいんですけど」

「わかってるわかってる。それよりな、昨日土産買うて来たってんで」

睨みつける花岡など意に介さず、エクゼクティブデスクに向かう香坂と傍らに控える村崎はニタニタと笑い花岡を手招いた。

全く解ってなどいないではないか。

土産などどうでもいいし忙しいと言っているだろう、と思いながらも一応は縦社会に生きる者として花岡はため息を呑み込み重い足取りで香坂らの前へ歩んだ。

「静也がな、絶対喜ぶ思てん」

デスクの下から件のテーマパークのロゴがデカデカと描かれたショッピングバッグを取り出した香坂はいつも以上に軽快に声を弾ませている。

こういった時の香坂の言葉は信用度がとても低い。

花岡が本当に喜ぶだろう物を用意している筈がないと解りきっているので、どうでも良い物を見せられればどうでも良い風に喜んでみせ、さっさと仕事に戻りたい。

三人きりの室内故にそれをありありと態度に出していた花岡は、磨き上げられた広い木製のデスクに並べられた物を目に言葉を詰まらせた。

「まず腕組してるぬいぐるみやろ。ペアカップにペアスプーン。フォークと箸もあるからな。こっちはネクタイピンとネックレスの揃いで、それからベタやけど定番のストラップは外されへんやろ。それからな・・・」

「いくつ買うて来てるんですか。それになんなんです。こんなペアのモンばっかり」

香坂がショッピングバックから取り出した物は一つではなく、次々とテーマパークのキャラクターのイラストやマスコットがカラフルな雑貨が並んでゆく。

ある意味想像を斜め上行く代物だ。

それらは、一つ残らずペアやお揃いの代物であった。

「まだあるで。これはなシャーペンとボールペンやろ・・・」

「甲斐、これ忘れてますえ」

「せやせや。どや、可愛いやろ」

「・・・。」

よもや、香坂は喧嘩を吹っ掛けているのだろうかとすら勘ぐってしまう。

こめかみと口角をひくつかせる花岡に対し上機嫌だとばかりの香坂は、手にしていた物を花岡へとつきつけた。

「トランクスとキャミソールセットや」

「・・・甲斐」

「心配せんでもキャミソールと一緒にちゃんとパンティーも入ってるからな」

「そんな心配してんとちゃいます」

香坂が手にする物。

ビニールの袋の中に綺麗に畳まれているそれは、小さなキャラクターのイラストが散りばめられ色鮮やかなデザインのトランクスと、明らかにレディースものの同じ柄が描かれた下着の上下セットである。

様々なペアの商品を購入してきただけなら他に何も言うつもりはない。

不要な物を押し付けられれば捨てるか、理緒が喜ぶなら持って帰っても構わない。

だが、ここまで来るといい加減にしろと怒鳴りたくもなる。

それでも怒鳴るのを懸命に堪えただ怒気を募らせるに留める花岡に、香坂は「しまった」とばかりに顔をしかめたが、けれど続けられた言葉はなんとも的外れでしかなかった。

「やっぱり、静也ボクサーパンツ派やったんか?」

「そうなん?せやさかい僕、言うたやないの」

「やけどボクサーパンツやと揃いの柄のん無かったやん」

「そうなんよね。融通きかん店やわ」

「せやから、そんなん言うてるんちゃう、言うてるでしょ」

香坂の手から村崎の元へ渡ろうとしていた下着が入った袋を手のひらで叩き落す。

誰がパンツの種類に不満を持っていると言うのだ。

何よりも人の話を聞けと言いたいが、三人でつるむようになって10年以上言い続けて受け入れられた事のない事案だ、今更急に改善されるとは思えない、というのが花岡の本音だ。

ならばと、花岡は拒否をみせるよう腕を組み香坂と花岡をにらみ付けた。

「要りません」

「全部か?」

「なんや、可愛いのもあるえ?」

「全部です」

「これもか?」

「それが一番要りません」

不満そうに唇を下げる二人に、花岡は淡々と言ってのける。

どうせただ花岡と理緒をからかいたかっただけで、こうなる事も全て計算済みのくせに。

面白半分にペア商品を見ているうちに度が増していった、というのは見ていなくとも瞼の裏に思い描ける光景だ。

「昨日静也も理緒ちゃん連れて来れば良かったのに」

「ほんま。中里のお連れさんも遠藤のお連れさんもえぇ子やったんよ。特に遠藤んとこの実くん、理緒ちゃんと仲良うなれそうやわ」

「お前は昨日何しとってん」

「甲斐、そんなん聞いたらあきまへんえ。きっと理緒ちゃんと大きな声で言われへんような事してはったんやから」

「そうかそうか。ストイックなツラしてるくせに、やる時はやんねんな」

「そりゃぁ、理緒ちゃんいう可愛い恋人居るんねんからヤル時は───」

ドンッ、と広い社長室に十分響き渡る重い音をさせ花岡は手にしていた書類の束を香坂の前に叩き付けた。

人の話を聞かない以上に、放っておけばある事ない事一日中話し続ける二人だ。

それを止めるのも花岡の重要な仕事の一つである。

香坂の前に置いたのは有り触れたコピー用紙で、一番上の紙面には「報告書」の文字が踊っていた。

「昨日ですか?仕事、してましたよ?誰かさんが急に『休む』言うさかい、その穴埋めしてたんですけど、心当たりありませんか?」

ゆっくりと、言葉一つ一つを強調させ放った花岡は、先ほどまでとは打って変わった笑みを浮かべている。

だがその微笑は「氷のような」という例えが相応しい畏怖しか感じられないそれだ。

元々表の仕事も裏の仕事も詰まっているところを、突然トップが抜けたのである。

会社や組織の機能をパンク・停止させない為にも誰かが応急処置をせねばならず、花岡以上に上手く処理出来るものが居なかったのだ。

そのうえ、ただそれだけにかまけて居られもせず、平行して己の仕事もこなしていたので昨日の忙しさは尋常ではなかった。

「・・・」

「・・・心当たり、ないなぁ。そうか、静也忙しいしてたんか。そりゃ可哀相になぁ」

「ほんま。そない忙しかったら理緒ちゃんとえぇ事も出来まへんおすなぁ」

「今度連休やるから理緒ちゃんとよろしぃしいな。郁、この書類回しといて」

「はい。これ氷川さんとこやね」

「静也もはよ仕事しぃや。今日も忙しいなぁ」

「・・・」

わざとらしく話題を変えた香坂は、面前に詰まれた書類を手にした。

よくもまぁシャァシャァと口が動くものだ。

デスクの上に土産物を陳列させたまま書類を眺める香坂に再度口角がひくつき、人をからかいふざけてばかり居ては人は付いて来なくなるぞ、と喉まで出かかる。

「・・・。午後からの会食は、私もご一緒させてもらう予定です」

「おう。剣菱の件やろ。期待してるからなー」

書類に目を落としたまま片手を振る香坂を見下ろし、花岡はため息を漏らした。

つまらない事で苛立ちを与えられたとしても、きっとこれからもこの男について行ってしまうのだろう。

理由の一つは腐れ縁。

それから、忠義やなんだというものではなく、結局のところ香坂の実力の本当のところを一番知っているのも花岡なのだという事だ。

「では時間まで私は執務室に居ます。失礼します」

目礼を送り踵を返す。

せめてもう少し普段から真面目さを兼ね備えてくれれば、と思いつつも、また話が長くなっては面倒だと口にしないまま花岡は社長室を後にしたのだった。



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