三城×幸田・お礼用S・S
(クリスマスの日の予備校)



予備校へ向かう道すがら、見上げた空に浮ぶ夕日が余りに綺麗だったので、思わず立ち止まって見入ってしまった。

ここは都会のど真ん中で、すぐ横の道路も車が行きかう。

その事実と、目の前にある夕日の大きさが何故か均整が取れていない気がしてしまった。

太陽に大きさを問うなんて、実に馬鹿げた事だと思う。

つまりは、その時忘れてしまったのだ。

自分の格好を。

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予備校に着くと、まず教員室に向かう。

自分の机に鞄を置き、コートを脱いだ。

それをハンガーにかけて部屋の隅に置かれたハンガーラックにかけようとしていると、一人の男が近づいて来たが、傍らに立たれるまで幸田はそれに気づかなかった。

「あれ、いい服着てるじゃないですか」

「ぅわっ!」

ぼうっとしていた所に声をかけられた幸田は、驚きに目を開いて少し飛び上がった。

「、、、なんだ、三枝[さえぐさ]先生ですか」

「なんだとはつれないな」

胸を撫で下ろしホッと息を吐いた幸田の横で、冗談交じりに眉をひそめてみせた三枝は、幸田の同僚で現国の教師をしている。

担当は幸田と同じ一年で、年齢は2つ上。

休日に外で会うほどではないが、たまに仕事帰りに飲みに行ったりする仲だ。

元々頻繁には行かなかったが、三城と付き合うようになってからそれは更に減った。

それは一重に、今までの相手と違いそういう事を三城が気にするからだ。

「へぇ、スーツだけじゃなくて、もっと良い物してるじゃないですか」

三枝は幸田の左手を取ると自分の目の高さまで掲げてみせた。

「あ、それは、、、」

「最近全然遊んでくれないと思ったら、彼女が出来てたんですか。あ、もしかしてその格好にこの指輪。昨日プロポーズした帰りだったりします?」

ゆっくりとした口調だが幸田に口を挟ませる隙をあたえずに述べると、ニヤリと笑いその手を離した。

「えっと、、まぁ」

いつになく歯切れの悪い幸田は、引きつった笑顔を浮かべ、無意識に右手で左手を握っていた。

プロポーズはしたのではなくされたのだ、なんて言えるはずがない。

彼女ではなく彼氏だ、とも当然言えない。

そう思うと他に思考が回らず、素直に頷いてしまっていたのだ。

三城が絡むと、不思議と幸田の思考力は低価する。

だが直ぐに、このままでは続けられるだろうお決まりの言葉を想像してしまい、何も考えずに「YES」と答えた自分を呪った。

「入籍予定はいつですか?挙式には是非呼んでくださいね」

やっぱりか、と幸田はため息を吐き、今まで以上に曖昧な返事を何とか返した。

そんな物は予定していないし、そもそも出来ないのだ。

「始業までにやらないといけない事あるので」

そう言って何とか三枝から逃れた幸田だったが、「指輪を外す」という選択肢は思いつかなかったのだった。



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