蒼穹を往く歌声・お礼用SS
(その想いここに・2)



拓深がようやく手に入った日、イスハークは夜を眠れずに過ごしていた。

傍らで眠る拓深を見つめ、髪や頬を撫でる。

出会った頃に比べれば随分と手触りの良くなったそこについ頬が緩んだ。

大切な、大切な宝物。

それをこれからは堂々と自分の物だと言える。

そう思えば、拓深に対する愛しさもひとしおだ。

今までも「拓深は自分の物だ」と言っていた。

けれどそこには命令のような響きがあり、周囲の船員も拓深自身もそう感じていただろう。

だが、これからは「命令」ではなく、「合意の恋人同士」としてそれを口に出来るのである。

その差はとても大きい。

もっとも、拓深はどう感じているのか解らないけれど。

生まれ育った環境のせいか、拓深は大抵の事を快諾してしまうところがあった。

一見長所に思える事柄だが、イスハークにはとてもそう思えない。

何故なら、それがどんな内容であっても、例え本心では嫌だったとしても、拓深は拒否を見せないからだ。

拓深を「使いたい」奴ならばそれは便利に感じるだろうが、イスハークは拓深と「暮らしたい」のであって、その方面から考えるととても厄介である。

拓深を従わせたい訳ではないし、ましてや己の全てを受諾してほしい訳でもない。

嫌ならば嫌だと言えば良いし、怒りさえすれば良いのに。

だが、そうと出来ない拓深だからこそ、周囲に流され傷ついてしまわないように守ってやりたいと思ったのだろう。

「拓深・・・」

鈍感なのか天然なのかそれともよもやわざとなのか、なかなか気がついて貰えなかった気持ちに拓深がやっと目を向けてくれた。

それが他の男に助言されたからだというのは少々癪に触るが、拓深の性格を考えれば仕方がない。

なにせ拓深は何かを与えられる事全般的に馴れていないのだ。

プレゼントは元より、自分が愛される可能性すら頭にない。

今にしても、拓深がイスハークを好きだとは気づきそして納得をしていたが、逆にイスハークが拓深を愛しているという事に対しては、まだ納得出来ないようである。

何故伝わらないのか解らないし、そのような嘘をついてどうなると考えているのかもさっぱりだ。

ただ、頭では一応理解しているらしい事と、けれどそれに心がついていかないのだろうという事だけは察せられた。

正直、何故こんなにも様々な方法で想いを伝えようとしているというのに何故解らないのだ、と言いたくもなる。

今まで女や男や、夜の相手は自分が大勢の中から選ぶ立場であった。

それを素晴らしいとは思っていなかったが一人に決めるのは面倒なだけで、情熱的な感情など無縁だとばかり考えていたのに。

そんなイスハークが生まれて初めて、どうしても手に入れたいと思ったのだ。

だというのに、想いの全てをぶつけても、「解らない」と言われれば他にどうする手だてもない。

「・・・何故わからないという。こんなにも愛しているのだ。拓深しか見えていないのだぞ?」

だが、いつか、近いうちに必ず納得させてみせる。

『わからなくて、ごめん』、そう呟く拓深が、いじましくて心苦しくもなるのだ。

拓深が持っているという想いよりもずっと強く深く、こちらの方が拓深を愛しているのだと気づかせてやる。

無意識にすり寄る拓深をイスハークはそっと抱きしめ返した。

この肌に名でも刻んでやれば拓深も想いを理解してくれるだろうか、などと冗談めかして考えたイスハークは、瞼を閉じながら徐々に本気で思案し始めたのだった。




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