ヤクザものシリーズ・お礼用SS
(初めてのお泊り・益田の場合)



自分でも気味が悪いと感じていたが、益田は弛む頬が止められなかった。

待ちに待った週末。

今夜は、自宅で愛しの恋人が待っているのである。

前回別れた時からたった数日。

だというのに、益田は恋人・上杉に会いたくて堪らなかった。

以前は気持ちも時間もすれ違い、なかなか会えなかった上杉。

それがこんなにも短期間でまた会う事が出来るようになったのも大きな前進であるが、それよりもその要因こそが、益田の心を躍らせている理由だとも言える。

今日、上杉は、前回の別れ際に渡した合鍵を使って、益田の部屋に上がり待っているのだ。

大人の男同士なので、当然今までも一夜や二夜を共に過ごした経験はある。

だが、「合鍵を使って」「自分より先に部屋で」待っている、というのは今までとまるで別もモノ感慨深さがあった。

そう、これは新婚家庭の夫の気持ちに近いのではないだろうか。

そんなこんなで朝から浮き足立っていた益田は、週末の忙しい金曜日、出来るだけ仕事を早く切り上げ帰宅の路に着いていたのである。

店は各店のマネージャーに任せて来た。

風俗店故に揉め事やクレームは日常茶飯で、悪質なそれであればどうしたって自分が出て行かなくてはならないだろうが、可能な限り呼んでくれるな、と言いつけて来ている。

最後に立ち寄っていた店から自宅まで車を走らせ、途中益田は目についた酒屋の前に車を停めた。

初めはケーキでも買って行こうかと考えたが、上杉は女性でない為スイーツを喜ぶかは判らない。

ならば、と次に思いついたのがアルコールであった。

今日は外食はなく自宅に食事が待っている。

上杉が、そう愛しの上杉が、己の部屋で手料理を作り待ってくれているのである。

車に乗って帰る事を考えなくて良いのが一つ、そして最高のご馳走に色を添えようと考えたのが一つ。

たまたま入っただけの店で店内を物色し、益田は薄い色のボトルに目を止めた。

上杉は甘めのフルーツワインが好きだ。

それから、アテの類はチーズやサラミなどくせの少ない物が好きである。

惹かれた物を手当たり次第籠へ放り込んだ益田は、ワインは二本、アテにしても二人分には些か多い気がする程になってしまったが、構わないかとそのまま会計を済ませた。

この土産を、上杉は喜んでくれるだろうか。

愛車へ戻った益田は今は誰も乗っていない助手席に買い物をした袋を置き、再び自宅へと走らせた。

早く上杉に会いたい。

浮かれきった心は隠しきれておらず、益田に畏怖すら感じている社員らは思っていても口にしなかったものの、店の泡姫達にははっきりと「良い事があったのか」とからかわれてしまった。

その度に益田は軽くはぐらかしていたが、出来るならば自慢して回りたいぐらいだ。

「和人・・」

つい制限時速を超過してしまいそうになりつつも安全運転を心がけ、益田は愛しい恋人・上杉の待つ自宅へと車を飛ばしたのだった。


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自宅のドアノブを捻ると、施錠されていないそこに唇が上がる。

深呼吸を一つし高ぶる気持ちを落ち着けた益田は、買ってきたばかりのものを抱えドアを開いた。

「だたいま」

「・・、益田さん、おかえりなさい。お疲れ様です」

ワンルームの室内。

奥のソファーセットでテレビを見ていたらしい上杉は、ハッと顔を上げると満面の笑みを浮かべ玄関へと駆け寄った。

「ごめん、帰ってくるのが遅くなってしまったね」

「いえ、思っていたよりもずっと早かったです。金曜日だし、夜中になるのかと思ってましたから」

「そう?そう言ってくれて嬉しいよ。あ、これお土産」

上杉に買ってきた物を渡す。

ワインやつまみを見て声を上げる上杉を可愛らしく思いつつ、益田は何気ない様子でジャケットを脱ぎネクタイを緩めた。

「お土産・・・ワインですか?わっ、おつまみも。それになんだかお洒落ですね」

「和人の口に合えば良いんだけど」
 
「すぐ飲まれますか?あ、でもどうしよう。晩ご飯に合うかな・・・」

「何を作ってくれたの?」

「えっと、肉じゃがを。やっぱり洋食にしたら良かったですね」

ベタですみません、と上杉が笑う。

苦笑交じりのそれがあまりに可愛くて。

益田は上杉の背を抱き寄せた。

「メニューを聞かなかった俺が悪いんだから。俺は和人が作ってくれた物なら何だって嬉しいんだよ。肉じゃがだったら、日本酒にすれば良かったね」

「っ・・ぁ。いえ、その、僕日本酒そんなに得意じゃないし、益田さんが買ってきて下さったものが、嬉しいです」

「そう?和人は優しいね」

益田の腕の中で上杉が身じろぎもしないのは緊張からだと判れば、愛しさは増すばかりだ。

何事にも初々しい恋人の頬を撫で、益田はこちらへ向くようよう顔を上げさせた。

「ぁ・・・」

そっと、互いの唇を合わせる。

自分とは違う、男にしては柔らかいそこを知り、此処に上杉が居るのだと改めて実感した。

今からご馳走が待っているのだから、こちらの「ご馳走」はもう暫く我慢するべきだ。

そうは思いながらも、上杉の小さく漏らす吐息を感じてしまった益田はなかなか唇を離す事が出来なかったのであった。







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