ヤクザものシリーズ・お礼用SS
(実のお泊りの時の遠藤)



実を霧島本部邸に預け出張に出ていた遠藤は、出発時から帰宅の道中の今まで悶々とし続けていた。

実が心配でならない。

霧島本部邸の主、前霧島組長香坂泰平と、自身の父親代わりである石森時貞。

どちらも遠藤を幼い頃から知っている故に、実[じつ]の親族のいない遠藤にとっては最も近しい人らと言え、石森と泰平もまた遠藤を本当の息子のように考えてくれているからこそ、実も可愛がってくれる事は解っている。

初めて実を二人に会わせようと決めた時は、両親に辛く当たられる実に愛情を、と考えたのも事実。

しかし、今となってはため息しか出ない。

二人は、遠藤が当初考えていた以上に、実を構い過ぎるのだ。

実は遠藤の嫁であり、二人にとっても息子嫁、もしくは義娘───義息でしかない。

だというのに今のあの二人は孫か何かと勘違いをしているとしか思えない。

実にだと言い、菓子を段ボールで何箱も送りつけて来たり、遠藤の趣味ではない古くさいデザインの洋服を送り付けたりとする。

それだけならともかく、今まで盆と正月程度しか連絡も取っていなかったというのに月に何度と電話が掛かってくる始末。

もちろん、用件は実に関するつまらない事ばかりだ。

実が日々どのように過ごしているかなど、遠藤だけが知っていれば良いというのに。

今回も遠藤としてはあの二人に実を預けたかった訳ではない。

一晩遠藤が家を空けるなど頻繁にある事であり、実も寂しそうにしながらも文句を言いはしないのだ。

実は一人で十分に留守番が出来る。

だというのに何故このような事になったのか、今更思い起こしても疲れるだけだ。

遠藤が石森と泰平に実を預けたくないのは、二人が過剰に実を構うから。

別の言葉で言うなら、『過剰に愛情を注いでくれる二人に、実が己よりもなついてしまわないかと考えてしまいならないから』である。

大量の菓子と実の望むプレゼントと、何より道楽隠居である故に常にべったりと構ってくれる二人は、仕事で家を空けがちの自身と比べるならば有利な気すらしてしまう。

実は幼児ではないので表面的な感情や物に吊られるとは思いたくないないが、幼児でなくともとても真っ直ぐな純粋な心を持っている。

そのような実だからこそ愛しているのだが、石森と泰平を前に楽しそうにする実を想像すればため息しか漏れない。

「・・・実、どうしてっかな」

そんなこんながあり出張の帰路につく遠藤は、急ぎたい道のりを反れて寄り道をしていた。

日本有数の百貨店チェーン店。

その本店で、遠藤は千原だけを護衛に引き連れ店内案内ボードを眺めていた。

「・・・つってもなぁ」

ここに来たのは実への土産を買う為である。

出張とはいえ今回出向いたのは寂れた田舎で、特産品があったにはあったが到底実が喜びそうな物ではなかった。

その為、何でも良いので実が喜びそうなものをこの百貨店で、と思って来たのだが、いざ来てみると一体何にすれば良いのか直ぐには思いつけなかった。

実と遠藤ではまず、年齢が違う。

それだけでなく、大人の中で育った事もあり小さい頃から年齢以上に落ち着いており今もそれは変わらない遠藤と、年齢よりも身も心も幼い実では、尚更趣味趣向が違うのだ。

実が喜ぶもの。

それを考えるのはなかなかに困難で、様々な物を送りつけてくる石森と泰平はある意味尊敬にも値する。

「・・・今の餓鬼は何が良いんだ・・・?」

「高校生や大学生の間ではゲーム機器の所有は当たり前のようですが・・・」

「ゲームって、実出来ねぇだろ」

ゲーム、と一口に言ったところで様々な種類があるのだろうが、そちら方面に詳しくない遠藤のイメージでは大抵のゲームに反射力が要される気がする。

反射力、それは実に最も足りないものの一つだ。

実が正しくゲームをプレイ出来るとは思えない。

しかし、そうと言いながらも遠藤と千原は玩具売場を目指しすぐ側にあったエスカレーターに乗った。

千原の回答など元より当てにしていない。

それというのも、千原にしても遠藤と大差のない趣味趣向だろうからだ。

だが、いくら答えを見つけられないからといっていつまでもいかにも強面の自分らが立ち尽くしているのもどうかと思い、とりあえず移動をする事にしたのである。

「音楽プレイヤーも皆が持っていると・・・」

「実、音楽なんて聞くのか?」

「長谷川が言うのに、夕方などに放送している番組を見て、そこで紹介されている歌を歌ってらっしゃるようではありますが・・・」

「・・・あぁ、なんか歌ってんなぁ」

風呂場で聞いた幼いリズムの歌声を思い出す。

元の曲を知らないので正確な事は解らないが、意味不明の歌詞から幼児向けの歌だろうと推測している。

実は音楽というものに全く興味がない訳ではないのだろうが、だとしても実と流行のポータブル音楽再生機、というのはあまりしっくりとこない。

そもそも、それにしても実が使いこなせるのかは不安なところだ。

「他だ、他」

「他に、ですか・・・」

大人ではなく、子供でもなく。

純粋で、幼くて、そのような実が好む物。

そして石森らよりも実を喜ばせられる物。

エスカレーターを乗り継ぎ、若い世代向けのフロアに到着すると、遠藤は目を細め辺りを見渡した。

まるでテリトリー外だ。

目に映るものはどれも、遠藤個人としては特別良いと感じる物は一つとしてない。

何が良いのか、答えのない物探しは辛いところがあった。

早く帰りたい。

気持ちばかりが焦り始めた頃、遠藤は無駄に歩いていた先の一点に目が止まった。

「・・・これ、いんんじゃねぇか」

「はい、実さんにとてもお似合いになると思います」

目を皿のように、の例えが如く見ていた玩具コーナーのその隅に見つけた物。

類似の商品が並ぶ中、一番目に付いた一つを持ち上げ、遠藤は目線の高さに掲げた。

ゲーム機器よりも、ポータブル音楽プレイヤーよりも、実に見合いそうだ。

もっとも、それは事実であるのか、遠藤の溺愛というフィルターが掛かっているからなのかは定かではない。

遠藤がこれだと選んだもの、それは実が腕に抱えるにちょうど良い大きさの、愛らしい瞳を持つクマのぬいぐるみであった。

もはや、実の年齢や流行は遠藤の頭にはない。

「これでいいな。帰るか」

「はい」

レジはどこだと遠藤が探し、千原がすかさず行く先を示す。

散々悩んだが良い物を選べたのではないだろうか。

実の喜ぶ様を考えると楽しみで仕方がなく、今の遠藤は至って上機嫌である。

しかし。

いかにも強面で、背中の極彩色が似合って仕方のない遠藤と千原。

その二人が腕で抱えるサイズのぬいぐるみを手に真剣に話しをしている様を見た同フロアで買い物中の客たちは、なんとも奇妙、そして恐ろしく感じてやまなかったのであった。




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