ヤクザものシリーズ・お礼用SS
(雪の初デートの後に)



初めての公園以外でのデートから帰宅した雪は、自宅に帰り着くなりその玄関で立ち尽くしてしまっていた。

ようやく気を抜く事が出来、放心状態だ。

ブティックやレストランで過ごした時間は、恐怖や、ましてや喜びよりも、ただ緊張ばかりであった。

「どうしたんだ、そんなとこで。こっちに来いよ」

「あ、はい・・・」

靴を脱いだ場所で動かないでいた雪を、服装を崩し始めていた赤星は迎えに来て手を掴む。

何事でもないとばかりにそうされると、雪はようやく安堵感というものが得られた気がした。

導かれるまま彼について行きソファーへ腰を下ろす。

「お疲れ様。どうだった?初デート」

「どう・・・。素敵な物が沢山で、ずっとドキドキして。凄く楽しかったです。でも、何か失敗してないか心配でもあって・・・・」

見るからに高級店だとばかりの店構えのブティックで洋服をいくつも買ってもらった。

あまりに自分とは似つかわしくない店や綺麗な洋服に気後れしかしなかったが、赤星が選んでくれた服をどれも似合っていると言ってくれたのはとても嬉しい。

そのうえ、ブティックの販売員は終始笑みを浮かべた丁寧な対応で、左の顔は長い前髪を赤星にセットしてもらい隠してはいたが、それでも痣や血管が見えたやも知れないというのにそれも嬉しかった一つだ。

その後に訪れたレストランでも似たようなもので、料理の味よりもその周りばかりが気になっていた。

果たしてこのような事に慣れる日が来るのか、疑問である。

「そうか。大丈夫、別に失敗なんてねぇよ」

「良かった・・・」

「雪、頑張ったな」

「え・・・?」

「怖かったんだろ?人とか、人の集まる場所とか。まぁ、俺が無理やり連れ出したからさ、心配ではあったんだけど」

「浩介さん・・・」

二人きりの部屋。

隣りあって座っている長いすのソファー。

雪の肩を抱き寄せた赤星は、その指に力を込めて見せた。

彼は解っていたのだろうか、雪の不安と緊張を。

確かに怖くはあった。

逃げ出したい心境に陥らなかったかと言えば嘘になる。

けれど。

寄り添った赤星を、雪は真っ直ぐに見上げる。

雪のその眼差しは、柔らかく眇められていた。

「大丈夫です。だって、浩介さんが居てくれたから」

「ん?」

「出かける前に浩介さんが言ってくれたから、一緒だからって。だから、浩介さんと居るから大丈夫だって、思ってました」

どんなに周囲を恐ろしく感じても。

それでも耐えられたのは、赤星が一緒に居て、そして微笑みかけてくれたから。

何があっても彼が一緒ならば大丈夫だ、そう思えば、不思議と街も優しく感じられた。

今まではただただ、拒絶されているとしか思っていなかった街並みは、己の歩み寄りも重要なのだと思わせた。

それもこれも、赤星が一歩を踏み出す勇気を教えてくれたのだ。

「可愛い事言うじゃないか。だったら次はどうする?どうせ今は仕事がないんだ、次のデートは明日だって構わないんだぞ?」

「次!?明日!?」

それはいくらなんでも早いでのはないか。

こんなにもの緊張が明日もだとなれば、それこそ気力と体力の回復が追いつかずに倒れてしまいそうだ。

素っ頓狂に驚きの声を上げた雪に、赤星はその身体を両腕で抱きしめながらクスクスと笑った。

「たとえばの話しだって。わかってる。明日は家でゆっくりしよう」

「よかった・・・。ごめんなさい」

「なんでそこで謝るかな。俺だって別に毎日出掛けたいわけじゃないし、それに、明日はシュエを独り占めしたい」

「ひっ、ひとり・・・」

耳元で囁かれる聞きなれない言葉にやはり過剰な反応となってしまう。

彼の言葉は甘くて。

時々知らない言葉を重ねられる時もある。

「マジで可愛いな、シュエは。もしかして俺の反応楽しんでたりする?」

「そっんな、まさか・・・僕は、その・・・」

ただ話しをしているだけで精一杯だというのに。

いつも動揺ばかりで、反応を楽しまれているのは自分ではないだろうか。

「ベッド行こう。シュエ抱きしめたい。俺結構シュエ不足」

「え?あっ・・・」

抱きしめられたまま身体を持ち上げられる。

1LDKの部屋。

隣りの寝室は直ぐそこで。

不足をしているのは自分も一緒だと伝える良い言葉も見つからないまま、ベッドの上に下ろされた雪は特に何をするでもなく赤星とじゃれあったのだった。




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