ヤクザものシリーズ・お礼用SS
(夏祭りに行きたい・2)



いつも以上にしっかりと実と手を繋ぎ、長谷川は屋台の並ぶ一帯へ足を踏み入れた。

「わぁ・・・。ひと、いっぱいね」

「そうっすね。ですから、絶対、絶っ対、俺の手離さないでくださいね」

「はぁい」

素直に、そして元気よく返事をする実は、けれどどう見ても、『心ここにあらず』だ。

今の約束に対し、実への信用はないと考えて良い。

「やりたいのとか食いたいのあったら言ってくださいね」

「はぁい」

返事だけは良い実を連れ、長谷川は両サイドに屋台の並ぶ通りを奥へと進む。

遠くから聞こえる微妙に音の割れたBGM、客の賑わいに、屋台から飛ぶ威勢の良い呼びかけ。

音の隙間もないような日常とは全く異なる空間は、次第に実だけではなく長谷川もを気分を上げさせる。

祭りの関係者としてならともかく、客としてただ純粋に遊びに来たのは随分と久しぶりだ───などと考えていると、突然腕の突っ張りを感じ長谷川は慌てた。

腕を引かれた訳ではない。

先を行く長谷川に対し、実の歩みが止まったに過ぎない。

「ねえ、じゅんくん。あれなぁに?」

「ちょ、実さん、いきなり立ち止まったらだめですよ」

「え?そうなの?」

「そうなんです。危ないですから。止まりたい時はこっち、屋台の近くに来てください」

「はぁい」

とりあえずだと人の流れから逃れるよう端へ寄る長谷川に、実は頷きながらついてきた。

まだピーク時ではないとはいえ、こんなにも人の流れがある中でいきなり立ち止まるなど、危険以外の何物でもない。

それが自分だけならばまだ良い。

体格もあれば、いかにもチンピラな風体が人を遠ざける。

だが、実はそうではないのだ。

ぶつかられれば転けるのは実で、か細くどことなく小さい印象のある実は舐めて見られるでしかない。

しかし、そのような長谷川の危惧などどこ吹く風、屋台の直ぐ近くにやってきた実は、繋ぎりあわせている腕を何度も引いた。

「じゅんくん、じゅんくん、あれ、あれ」

「あれ?どれっすか?」

「あのあかいの。あかくてきらきらしてるの」

「赤くて・・・あぁ、リンゴ飴っすか?」

「あれりんごさん!?」

興奮しきった実が示す方へ向かう。

そこは林檎や苺、ぶどうにみかんが色づけされた飴にコーティングされた物が並び、確かにライトの光を受けキラキラと輝いている。

逆さまに向けた林檎に割り箸を突き刺した姿は、実の中で林檎と認識され難いのだろう。

驚いた様子で、『林檎』と繰り返し呟いていた。

「実さん、これ食べたいんですか?」

「うん、たべたい。じゅんくん、いい?」

「いい・・・っすけど、いきなりこんなデカいもん食ったら、いくら実さんでも他のモン、あんまり食べれなくなりますよ?」

「えぇ・・・」

実はよく食べるし、食べられるだけの胃も持ってはいる。

しかし満腹の制御が一般人よりも劣る為、『食べ止め』は長谷川がいつも気にしていた。

つい一時間にも満たない前に三段重ねのアイスクリームを食べたところなので、なんでもかんでも、とはいかないいだろう。

「このでっかいリンゴは止めておきましょう。こっち、いちごとかぶどうとか、みかんとか、小さいリンゴならいいですよ」

「はぁい。どうしよっか・・・・」

しまった、もっと具体的な提示をすれば良かった、と思ったのは後からだ。

アイスクリーム屋でもそうであるが、実が選ぶのはとても遅い。

何名もの客がやって来ては購入し屋台を離れていくのを見送り、ようやく実は頷きながら長谷川の手を引いた。

「・・・じゃぁね、みのね、いちごさんにする。じゅんくんは?」

「俺、っすか?あ・・・じゃぁぶどうにします」

本来なら、護衛としてなら、食べるべきではない。

だが、今の長谷川の中にそのような選択肢はないようだ。

「いちごとぶどう一個づつ」

「はぁい、じゃぁいちごとぶどうで600円ね。好きなの持ってって」

屋台の中の若い女性に小銭を渡し、実にいちごが二つ刺さった棒を渡す。

赤い飴にコーティングされたそれを、実はなんとも嬉しげに眺めていた。

「じゅんくん、きれいね。きれいね」

「そうっすね。でも、これかなり弱そうなんでさっさと食べてください」

「よわい?よわいの?」

「あぁ、もういいっすから、ほらほら、垂れる・・・」

強いのは、リンゴ飴・大だ。

あれは歯が折れそうな程堅く、頭を殴られたら痛そうだが、このイチゴ飴は到底そうは思えない。

こうしている今も、密のついた飴が滴っている。

実の理解がおいつくまで待てる筈もなく、長谷川は急かして実の口にそれを入れさせ、長谷川もまた同じくぶどう飴を口にした。

「んっんっ・・・じゅんくん、おいしいね。あまいね」

「そうっすね、俺もはじめて食ったんですけど、旨いっすね」

二口で食べきれる量のそれを、シャリシャリと飴を噛む音と共に食べきる。

実の満足そうな顔が、幸せでならないとばかりの顔が。

人ごみの中でもここへ連れてきて良かったと長谷川に思わせる。

仕方がない、ここまで来てしまえば、最後まで楽しんで帰ってもらうしかない。

長谷川は二人分の飴の残骸の棒を離れたゴミ箱に投げ捨て、諦めた笑みを浮かべたのだった。



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