ヤクザものシリーズ・お礼用SS
(夏祭りに行きたい・4)



暫し考える仕草を見せた野木は、感情の読めない眼差しを長谷川に向けた。

「金魚すくいじゃねぇとダメか?」

「は?・・・」

「俺の女がカメすくいやってんだよ。どうだ、カメ」

「カメ・・・っすか!?」

予想外の提案に長谷川から素頓狂な声が上がる。

たしかに小さな緑亀をポイで掬う屋台もあったなと、思い出した。

「金魚でも紹介してやれんだけどよ、実さん、どうですか?」

つまるところ、野木は己の恋人を見せびらかしたいのだろう。

実に視線を合わせニッと笑ってみせる野木に、実はボケっとした表情のまま頷いた。

きちんと理解をしているのか否か、長谷川には自信がない。

「みのね、かめさん」

「良いんすか、実さん。金魚じゃなくても」

「かめさん、かわいいね」

長谷川を見上げ、実は嬉しそうに言った。

だが、長谷川が想像するに実の言う『カメ』は、アニメかイラストによくあるポップにデフォルメされたそれではないか。

本物の生きている亀を見てまで『可愛い』などと言っていられる保証はない。

「・・・まぁ、いっか。その屋台って遠いんですか?」

「いや。すぐそこだ。三件くらい先かな」

「あぁ、それで野木さんここに居たんですか」

見回りをしていた、というのも決して嘘ではないのだろうが、それだけでもないようだ。

長谷川の指摘に野木は誤魔化すように笑った。

「実さん、本当に亀で良いんですね?」

「うん。みのね、かめさんがいい」

「わかりました。野木さん、すみません。口利いて貰えますか?」

「あぁ。こっちだ」

満足そうに頷き、野木は指差した方へ向かった。

なにはともあれ、実の希望を無碍にせずに済んだのが何よりだ。

「じゅんくん、たのしみね」

「そうっすね。実さん、上手に掬えると良いですね」

「うん」

カメすくいがどのようなものであったのか直ぐに思い出せなかったが、きっと『亀』なのだから金魚よりは動きが遅く掬いやすいかもしれない。

少なくとも、ひよこ釣りだと言われるよりは何倍も良かっただろう。

あれがかわいいのは初めの数日だけで、ひよこは直ぐに育ち、奴らはにわとりとなるのだ。

「ここだ。おい、優香、ちょっといいか」

さきほど言っていた通り三件隣の屋台まで来ると、野木は屋台と屋台の隙間を通り奥へと入っていった。

そこには一人の女性が座っており、彼女が『優香』であり、野木の彼女なのだろう。

長いストレートヘアは金に近い茶色で、十分美人名部類に入る。

だがそれだけに、気のキツそうな面立ちが引き立っていた。

「なに?何かあった?」

「ちょっとよ、そこ座らせてやってくれねぇか?」

「ここ?誰が?あんた店番やりたいの?」

「ちげぇって。あのな───」

センター分けをされた顎まである長い前髪を掻き上げ、優香は訝しそうに野木を見やる。

長谷川と実とそして遠藤の事や実の足の事情を野木がかいつまんで話せば、優香は納得したのか一つ頷きカラリと笑った。

遠藤と実の関係を簡単な説明で呑み込んだあたり、優香は元から知っていたのやもしれない。

「なるほどね。どうぞどうぞ、中入って。って言っても、本当は椅子じゃなくて台座なんだけね」

「すみません。ありがとうございます。実さん、気をつけて中入って、そこ座らせて貰ってください」

「はぁい。おねえちゃん、ありがと」

立ち上がり実に席を譲った優香は、屋台のバックスペースで煙草を吸い始めた野木に並んだ。

優香は実よりも僅かに高い程の身長で、シンプルなキャミソールとジーンズ姿。

さばさばとした様子は内面も外見も同じくのようで、これが野木の好みだと言われればイメージそのものだ。

実の後に続き長谷川もバックスペースに向かう。

彼女が『台座』と言っていた通り、勧められたそこはビールケースを逆さにし薄い座布団を敷いただけだ。

長谷川に促されるまま、実は椅子代わりのビールケースに腰掛ける。

その眼差しは、水槽を泳ぐカメをだけを見つめ嬉しげにしていたのだった。




+目次+