ヤクザものシリーズ・お礼用SS
(大好きな/遠藤×実パラレル・同人誌「初恋の詩」より)



ここは、私立霧島保育園。

遠藤豊が保育士を勤めるトラ組では、今日も元気な園児の姿があった。

「描き終わるまで立ち上がんじゃねぇぞ」

「はぁい」

「はぁーい」

四人掛けの低いテーブルと椅子が人数分並べられ、それぞれ席についている園児達は画用紙を前にクレヨンを握っていた。

今はお絵かきの時間であり、今日のテーマは動物だ。

ありふれたテーマだが、それだけに解り易くて良い。

思い思いに画用紙へクレヨンを走らせる園児を、遠藤は机の間を縫い歩きながら眺める。

トラ組は4歳クラスだ。

個人差はあるものの、優しい気持ちで見てやれば何を描いているのか解らないでもない作品が多い。

「兎に・・・像か」

他にもライオンやキリン。

子供に人気のある動物というのは大体決まっている。

大きくて強そうであったり、小さくて可愛くあったり。

だからこそ見分け易いのである。

そんな中。

遠藤は、一人の園児の後ろまで来ると歩みを止めた。

「実は何描いてんだ?」

谷野実は、遠藤の気に入りの園児だ。

本来ならば保育士なるもの、園児に『気に入り』も『そうでない』も考えるべきではない。

だが、そう頭で考えていても、どうしても思わずにはいられない園児が実である。

他の園児よりも一回り小さくて、サラサラの髪を持つ愛らしい少年。

その実も遠藤に大変なついてくれている事も、遠藤が実を特別視する所以だろう。

とはいえ、今遠藤の足が止まったのは実を贔屓してではなく、単純に実が描いている絵に気を引かれたのだ。

白い画用紙に実は緑色の『何か』が描かれている。

全体的に丸っこいがそれだけだ。

緑色の動物───だとおもわれるもの。

それが何であるのか、遠藤には解らなかった。

うさぎはピンク、ぞうは水色、と実際には異なるイメージで描かれる場合もあるし、園児独特のカラーリングというのもあり得る。

だが、それにしても緑色とは何だと眉間に皺を寄せると、一生懸命クレヨンを動かしていた実が満面の笑みを浮かべ遠藤を振り返った。

「えっとねーこれねぇーみどりちゃん」

「は?みどりちゃん?なんだそれ」

「あのねーみののねぇ、おともだち」

答えになっていない。

遠藤から画用紙に顔を戻した実は、緑のクレヨンから水色のそれに持ち帰ると緑色の物体以外をグシャグシャと塗りつぶし始めた。

「みどりちゃんって何もんだ?」

水色は、ただの実の趣味か、もしくは水か海を表しているのか。

水の中にいる緑色の『動物』。

「・・・ぁ」

遠藤がようやく一つの答えに辿り着いた時、実が高らかに言い放った。

「みどりちゃんねー、かめさん」

「やっぱり亀か・・・」

「みのがねぇ、おせわしてるの」

「そういや・・・ンな事言ってたなぁ」

なんでも誰かに貰ったという、ミドリガメ。

それを実が世話をしていると、以前実自身から聞いた気がする。

「みのねぇみどりちゃん、だぁいすき」

「そうか。良かったな」

「うん」

実は嬉しげにしながら絵を描きあげてゆく。

言われなければ亀とは解らない、緑色の丸い物体。

けれどそれが亀であると実が言うなら、遠藤には素晴らしい亀に思えた。

「でーきた」

「うまいな、実。上出来だ」

完成した画用紙を実は掲げ、遠藤はその頭をグシャリと撫でた。

結局のところ、他の園児など大して見て周りもしなかった。

だがそれも仕方がない。

他と実とでは、表し難い程胸に宿る感情が別物なのだ。

なんとも満足そうで、能天気に笑っていて。

そんな実を、遠藤は溜まらなく愛しく感じるのだった。






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