花、香る・お礼用SS
(一の居ない日・一の場合)



朝、出かける準備を終えた一は自室でみたらし団子を食べていた。

まだ熟睡の中に居る片桐を眺め、一は布団の隅に座る。

父親である新垣に、今日片桐は休暇日だと言われていた。

毎日毎日一と一緒に居てくれる片桐なので、たまには一人にさせてやらねばいけないと新垣は言う。

その意味も意図も一にはよく解らなかったが、新垣がそういうので一は片桐に抱きつきたい気持ちを精いっぱい押さえていた。

けれど、やはり片桐と共に過ごしたい気持ちは強く、だからこそわざわざ、団子の乗った皿を此処まで運んで食べているのだ。

今日は新垣と二人で出かける。

新垣の舎弟や護衛は居るだろうが、彼らはいつも居ない者のように口を閉ざしているので、一にしてもそのように扱うのが当たり前だと思っている。

どちらにせよ、そこに片桐はいない。

とても寂しいが、一が寂しいという事はもしかすると片桐も寂しくあるかも知れない。

そう思った時、一はふと畳に置いたみたらし団子の乗った皿を凝視した。

小皿に乗ったみたらし団子は当初4本。

内一本は食べ終わり串だけが皿に乗り、もう一本は今一が手にしており後一口で串だけとなる。

残るは2本。

旨いみたらし団子が後2本ある。

一は手にしている団子の最後の一口を食べきり串だけにするとそれを皿に戻し、そこに残されていた二本を纏めて手にした。

これは、片桐にあげよう。

一人で留守番をするのだから、きっと寂しい。

「・・・。あそこ、まさや、好き」

立ち上がり見慣れた自室を見渡した一は、その中で最も新しくまだあまり見慣れていない物へと足を向けた。

普段片桐は一日の多くをこの前で過ごしている。

ならば、ここに置いておけば片桐は必ず見つけてくれるだろう。

「おい、一ー。一はどこだー?出かけるぞー」

先ほど入って来たまま閉ざされていない襖の向こうの廊下から新垣の叫ぶ声が聞こえる。

一はそこに、───デスクトップパソコンのキーボードの上にみたらし団子を置くと、自身の食べた残骸の乗った皿を取に戻った。

「まさや、行ってきます。・・・いってきます」

まだ眠り、起きる気配のない片桐に繰り返す。

本当は手を振りたかったが、皿を持っている為叶わない。

「一ー、はじめー」

「はぁい」

パタパタと一は畳を走り自室から出て行った。


そして、キーボードの上にみたらし団子だけが残されたのだった。




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