花、香る・お礼用SS
(片桐と一の夜)



一の部屋は屋敷の一番奥にある。

隣りから数部屋は滅多に使われない客間で、新垣の部屋も応接室も宴会場も一の部屋からは遠い。

それは、ヤクザの家で育ちながらヤクザにはなれない一を、出来る限り黒い物から遠ざけようとしている新垣の親心からだ。

けれど最奥にあるからこそ、一の部屋を訪れる人は少なかった。

用があれば来はするもののそれ以外はひっそりとし、いつも一は一人寂しくしていた。

護衛にと組員を付けては貰っていたが、コミュニケーションの下手な一と積極的に仲良くなろうと思う者などただ一人を除いて居なかったのだ。

「ほら、いち。腰上げろ」

「んっ・・・・ん」

深夜よりも少し前の薄暗い一の部屋。

枕元に置かれたフロアライトの明かりだけが頼りの中、片桐は一の足を持ち上げながらその身へと覆い被さっていた。

「まさぁ・・・」

「いち、こっち向け。どうだ、俺のモンは」

布団の上に横たわる一の体内を片桐の雄々しい雄が貫く。

初めて一と性交をしたのは片桐が地堂組にやって来たその日で、一の付き人となって以来昼夜を問わず頻繁に行為を重ねている。

全裸に剥いた一はあばらが浮き出ている程細く、持ち上げられた足も片方しかない腕も非力さを訴えるようだ。

一は空腹感よりも興味の有る無しが優先されるようで、食事に興味が持てなければ料理に手をつけない、もしくは数口しか食べない時も頻繁にあったと聞いている。

そしてそれを誰も咎めようとしない。

言ったところで結局一と意思の疎通など測れないのだからと、食事の有無すら一の好きなようにさせていたという。

しかし片桐が一と過ごすようになり、大抵の食事に『興味』を持ってくれるようになったのだろう。

初めて一を抱いた日から比べると随分と肉付きも血色も良くなっていた。

一方の片桐は初めの夜から変わらず、無駄な肉が無いまでに引き締まった見事な身体と、何よりも背中の極彩色、厳めしい形相の雷神に目を奪われる。

新垣の背にも立派なものが入っている為、初めて片桐の文様を見た時も一は驚きはしなかった。

むしろ当然の事だと受け入れる様子が、淡々とした面持の一に嵌り過ぎていたと今でも思い出す。

「・・・まさやぁ・・・。あーあぅ・・・」

「どうした、苦しいか?」

「あー・・・う・・・」

「あ?なんだよ」

「あーあぁー・・・」

片桐の背に腕を回ししている一は、嬌声とは明らかに違う艶のない声で呻いた。

唇は閉じる事も出来ないのか半開きだが、苦しげな様子は見受けられず一の様子に困惑をする。

平素から一の感情も考えている事も解らない事が多い。

解らなければ放っておく事もある。

だが、自身が一を貫いている以上、己の手で愛しい一を苦しめたくなどない。

「いち、抜くか?」

「・・・やぁ。いち、まさや」

背中に回されていた一の手が、片桐を強く引き寄せる。

そうして───、一の腰が揺らされた。

「おい、いち」

「うー・・あ・・・。・・・まさや」

「あ?なんだ?」

「・・・、・・・すき。きもち、いい」

「気持ち良い?・・・それ、言いたかったのか?」

一が、小さく頷く。

足を抱え上げられながら不器用にも腰を振るって見せる一に一瞬意識を奪われた片桐は、ハッとすると胸の密着を深めた。

身体に感じた感覚を言葉として表現するのは、一にとっては容易い事ではないという。

気持ちが良いと、それを見つける為に一は唸っていたのだろう。

「まさや。すき。気持ちいい。すき・・・」

「それじゃぁ、俺が好きなのかちんこが好きなのか解んねぇだろ」

「ん・・・あぁ・・・・あっ」

言葉も表情もつたないくせに。

身体ばかりは一人前以上で求めてくる。

唇を開け口角から流れる唾液も、散々乱れさせ荒くなる呼吸も、快楽に揺れる瞳の奥も。

いつもとは違う己だけに見せる一の姿は、一度知ってしまえば中毒のようにくせになる。

可愛くて可愛くて、止められない。

「まさぁ・・・あぁ・・・あっ・・・あぁ・・・」

「もっと、声出せ。可愛い声、聞かせろ」

求めれば求めるだけ片桐は返してくれる。

それを知った一はもう、一人で寂しいと言葉に出来ない想いに苛まれる事は無かった。

「まさや・・・まさぁ・・・あ、ぁ・・・」

一の部屋は屋敷の一番奥にあり、滅多に人は来ない。

片桐が来てからは殊更部屋にやってくる者は限られるようになり、加えて、夜は特に誰も二人の部屋には近づきはしない。

つまるところ、付き人と組長の息子だという関係を越えた二人の仲は、新垣を始め多くの組員が知っているのであった。






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