ヤクザものシリーズ・お礼用SS
(お疲れの益田の)



ある金曜日の夜。

益田はため息を吐きながら自宅マンションの駐車場で車から降りた。

仕事だという事は解っている。

仕事柄だという事も解っている。

今の職についてもう何年にもなるし、この先も当分転職の予定はないのでこの環境が変わる事がないというのも納得済みだ。

それでもどこか疲れたものを感じ、益田はもう何度目ともつかない浅いため息を吐き出した。

キャッチ・キャットのある店舗に最近、三人組の新人の女性が入って来たのである。

風俗店の面接にグループで訪れるのは珍しくはない。

女とは何事においても塊で動きたがるものだ。

それも、未知なる風俗という世界に踏み出す時は友人を巻き添えにしたがるのだろう。

社会の地に落ちてゆくのは自分だけではないと言い聞かせたいのかもしれない。

彼女らを面接をしたのは益田で、採用を決めたのも益田だ。

もっとも、『採用』とは言ってみても『不採用』とする場面は殆どない。

あるとするなら、明らかにトラブルを起こすと解っている人物、他店でブラックリストに載っていたり見るからに薬物中毒であったりという場合だ。

そうでなければとりあえずは採用にする。

それから、勤め始めて不適切である場合は辞めさせる、という形式を益田はとっていた。

女は顔だけではない。

外見の容姿が優れていなくとも人情味溢れ人気の出る女性も居るし、驚く程の手管を持っている女性も居る。

男の好みにしても様々で、世間一般的に美人の類に入らずとも一握りの間では『美人』となる女性もいる。

その為、今回採用した三人組も『不採用』とするだけのものがなかったので採用したのだが、それが本当に正しい選択であったのか今となっては解らない。

「・・・こんな様子じゃ、心配させるな」

エレベーターへ乗り込み自宅を目指す。

再び込み上げるため息を呑み込み益田は苦笑を浮かべた。

今日は週末である為、上杉が家で益田の帰りを待っているのだ。

夕方過ぎには上杉が益田の家に到着したという連絡が入っていた。

その後彼からの連絡は無かったものの、つい数十分前に帰宅の旨を連絡すると、『待っている』という短文ながら胸が熱くなるメールが返ってきていた。

もう直ぐ上杉に会える。

たった一週間───中日を数えるならばたった4日。

会っていなかっただけだというのに、早く会いたくて仕方がない。

自宅のあるフロアへエレベーターが到着する。

扉が開くなり転がるようにそこから飛び出すと、益田は早くなる足で自宅に到着し開いていた玄関から中へと入った。

「ただいま」

「あ。おかえりなさい」

ワンルームの部屋は玄関から全てが見渡せる。

以前とは比べものにならない程物の増えた部屋を満足そうに眺め、益田は革靴を脱いだ。

家具や雑貨が増えたのはここを使用する人間も増えたからだ。

週末や祝日だけとはいえ上杉が頻繁に訪れるようになった為、確実に彼の私物は増えていた。

一つ物を置く毎に、もしくは何か忘れ物をする毎に、上杉は申し訳のなさそうな顔をするが、彼の物が自分の家に置かれているというのは益田にとっては喜びでもある。

「遅くなって悪かったね」

「そんな。修也さん、お仕事ですから」

ソファーでテレビを見ていた上杉は、益田の帰宅を知ると直ぐに立ち上がり数歩の距離を歩み寄た。

この家に着替えとして置いている部屋着を来た彼は、スーツ姿よりも幾分幼く見える。

益田の脱いだジャケットを当然のように受け取ると、上杉はそれをハンガーへと掛けた。

そのような事を益田が上杉に頼んだ事は一度もないし、してもらうのが当然だとも考えていない。

けれど世話をやいてくれる上杉が嬉しくて、口先では『気を使わなくて言い』という趣旨の事を言いながらもまんざらではなかった。

一日絞めていたネクタイも外す。

それをネクタイ掛けに掛けたのを確認し、益田は後ろから上杉を抱きしめた。

「あぁ、疲れた」

「修也さん?」

「和人は気持ち良いなぁ」

男だから、女だからと人を見るのはあまり良い事だとは言えない。

上杉は真性のゲイだといっているが益田はそうではなく、男だから彼を愛している訳でもない。

だが、仕事柄か無性に恋人・上杉が男であることを幸せに感じる事がここ最近頻繁にあった。

「どうかしたんですか?」

「どう?・・・まぁ、日常って言ったらそうなんだけどね。ただ、和人を愛してるって話し」

「し、修也さん」

耳元で囁いた言葉に、上杉が肩を震わせる。

交際を初めて数ヶ月。

それでも尚初々しさを感じさせるところもまた、益田が上杉を愛しく感じる所以だ。

後ろから抱きしめた格好のまま上杉を引きずり、男二人にはきつい広さのソファーに座らせた。

「今日和人は疲れた?」

「それなりには・・・でも僕はデスクワークですから、体力的にはそんなに」

「なら、エッチしてもいいよね?」

言いながらも、益田の手が上杉のトップスの裾から内部へと差し込まれる。

耳たぶを食んでやれば、上杉は小さく声を上げた。

「ぁ・・・は、はい。僕も・・・」

「可愛いな、和人は」

益田の腕の中で身を堅くする上杉のその様も何もかもが愛おしい。

仕事では生身の女性を相手にしている。

それは比喩でもあり事実でもある。

先日入店したという女性三人組は、容姿は並ながら派手な趣向のようで、何をするにも目立つのだ。

残念ながらその全てが良い意味ではない。

店用のパネル写真撮影では、友人と一緒だという安心感からか恥ずかしいだなんだと言い真面目にポーズを決めない。

だというのに、バックヤードでは大声で下品な会話を繰り広げる。

見れたものではないスッピンで出勤して来るは、益田始め男性スタッフの前でもムダ毛の処理をするは。

もっとも、その程度は彼女らだけに限った事ではないので今更驚くでもない。

けれどどうにも、三人もの女が集まり声高になるというのが疲れを呼ぶ。

仕事はそれなりにしているし売り上げには繋がっているし、トラブルらしいトラブルは起きていない。

だからこそ益田も強くは出られないのだが、表面上は皆平等に笑みを向けている益田に対し、彼女らが揃ってデートを誘って来たのである。

まるで、女三人を独り占めに出来る事がありがたいだろうと言わんばかりに。

どこか上からの目線にも思える彼女らをやり過ごすのはなかなかに骨を折った。

仕事柄、このような事は頻繁にある。

だが、無性に疲れる時もあるのだ。

「修也さんはお疲れみたいですね。大丈夫ですか?」

「大丈夫だよ。それに今から和人がいやしてくれるんだろ?」

「え・・・ぁ」

かつては女性とも交際が出来たしSEXも出来た。

けれど今は、そのような自分を到底考えられない。

それは女の裏側の本音を深く知っているからだろうか。

それとも、此処に愛しい存在があるからだろうか。

「このままでも良いよね?」

「・・・はい。修也さんが、良いなら」

そっと、狭いソファーに上杉を押し倒す。

不安定なそこで、変わらないものを感じながら益田は唇を重ね合ったのだった。


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