クライン×北原・お礼用SS
(日本人基準・5)



料理には元々自信など全くない。

これまで一人暮らしとあり必要に駆られて自分の食べる分を自分の為だけに作る程度だった。

そのうえ、大学生時代ならばともかく社会人となってからは、自炊をする機会もめっきりとへり月に二・三回あるかないかという状態だ。

だというのに、クラインに手料理をリクエストされたものだからまず悩んだのはメニューである。

クラインはアメリカ人の為洋食を出すのは躊躇われる。

料理に自信がないうえに、日本人向けの洋食の作り方しか知らないのだからそんなものを彼に出せる筈もない。

他国の料理であればまだましかとも思ったが、どれにしても結局は日本人向けの味付けにアレンジされている。

日本風他国料理などを彼に出すのもどうなのかと思えた。

ならばと最後に残ったのは日本料理、それも彼が普段食べる事もないような家庭料理だ。

日本通の彼は刺身も生卵も納豆も平気だという。

それらは料亭や旅館の料理にも使用されているようだ。

今まで弁当ならば何度か作った事がある。

けれど今はその時とは大きく違い、出来立ての暖かいものを出せるのだ。

それはいくらか利点として動くのではないかと思えていた。

「・・・えっと、よし」

クラインに何度か説明をし座卓で待ってくれるよう説得をした北原は、キッチンに一人になると料理に集中をしようとしていた。

とはいえ、後ろに彼が居る、それだけで集中力は普段程も発揮出来はしない。

お国柄か彼個人の性格かクラインは料理を手伝いたがったが、こちらもまた北原の育った環境と性格故に、恋人であり客人でもある彼に料理を手伝わすなど出来はしなかった。

申し訳なさばかりを感じてしまい、益々作業が捗らなそうだ。

まな板の上でふきんを使い水抜きをしていた豆腐を切り分けると小麦粉をつける。

熱していた油の中にそれをくぐらせれば、はぜる音に少し肩が震えた。

「・・・ぁ」

メインの品は出勤前に作っているし、暖めるのも済ませたのでこれが出来れば完成だ。

後は盛りつけだと、北原は今日の為に買い揃えた皿や器を食器棚から取り出した。

食器を買い揃えたのもインターネットの通信販売である。

ただいつも通りにモニターで商品を選び確定をクリックする。

それだけの作業であるはずだというのに、それがどうにも緊張をしたと今でも思い出せる。

たかだか食器だ。

それがどのようなものであれ彼は気になどしないだろう。

そう思う反面、日常的にレストランや料亭を利用する彼はそこまで気を向けるのではないかとも考えが及ぶ。

そしてなにより『二人分』という響きが、北原の中で特別な印象ばかりを与えた。

暖めた物をそれぞれ器に盛りつける。

そうしていると油の中の物も色が変わり始めたので、焦げないようにと裏返した。

初めて作るものだ。

レシピは何度も見たが、成功するかは分からない。

一度くらい練習をしておけば良かった、などと今言っても仕方がない。

「えっと・・・」

揚げているもの以外は盛りつけ終わった。

これにしてももう直ぐだ。

少し迷ったが食器を全て並べるには作業スペースは狭いと、北原は出来上がったものから座卓へと運んでいった。

「レイズ、後ろ失礼します」

「直哉。出来たのか?本当に私が手伝える事はないのだろうか?直哉ばかりに・・・」

「だ、大丈夫、です。座ってて、ください」

マットへと向かうと、まだ室内を眺め続けていたのか斜め上へ顎を上げていたクラインが北原へ視線を落とした。

言いながらも腰を浮き掛ける彼を、北原は慌てて制する。

盆に乗せていた箸と湯飲みを置けば、続きがある事を軽く伝え踵を返した。

二度往復をし、その間にも油を気にする。

慣れない事の為に気ばかりが急いて、皿を手から滑らせそうにもなった。

そうしながらもなんとか揚げ物も揚り、盛りつけてダシをかけると最後のそれを丁寧に座卓へと運んだ。

「お待たせしました、これで全部です。・・・大した物は、出来なかったんですけど」

「直哉、これを直哉が作ったのか?」

「はぁ・・・一応。家庭料理の定番、だと思います」

メニューは迷いに迷った。

いっそ母親に相談をしてしまおうかとも思ったが、女性ならばともかく男の自分が、それも外国人に、などと説明するのも大変だと諦めた。

頭を悩ませてたどりついたメニューは、たぶん今の北原に出来る限りのご馳走だ。

「えっと、こっちが肉じゃがで、味噌汁、揚げ出し豆腐と、炊き込みご飯、です。お口に合うかは分かりませんが・・・」

「いただいても、良いだろうか?」

「はい、どうぞ」

北原の言葉をどこまで届いているのか。

器の中身を眺めながら、真新しい箸を持ち上げる。

しかし肉じゃがへと向けかけたそれを、クラインは触れる前に戻すとテーブルへと置いた。

「・・・」

何があったのか。

食べられない物でもあったのか。

それがただの好みならばともかく、国柄、宗教的理由であれば失念していたとしか言えない。

恐々としながらクラインを眺める。

すると彼は、おもむろに両手を合わせた。

「いただきます」

「・・・ぁ」

「食事の前に礼を述べるのは、日本の素晴らしい文化だ」

「あ、はい・・・いただき、ます」

素晴らしい文化。

そんな風に考えた事などなかった。

改めてだとクラインが箸を器へと向ける。

その様子を、胸が暖かくなる思いを感じながら眺めたのだった。





  

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