クライン×北原・お礼用SS
(日本人基準・7)



終始賛美の言葉を聞きながらの食事は無事終えた。

「ごちそうさま、でした」

「ごちそうさまでした」

クラインは全てを食してくれた。

肉じゃがの出汁を飲もうとしたのでそれは止めたが、そうと言っても彼はこんなに旨いのにと惜しんでくれたくらいだ。

自信がある訳ではなかっただけにあまりに誉められても実感は沸き難い。

照れくささから唇の端が下がってゆく北原にクラインはお構いなしだった。

皿や器を重ねキッチンへと下げる。

それをそのままにし布巾を手に戻ると、北原は慣れた手つきでテーブルを拭いた。

「直哉は働き者だ。日本人は勤勉だが、自宅でもそうなんだね」

「いえ、そういう訳ではないかと・・・」

勤勉だとか、まして今が「働いている」などという自覚はない。

ただ自分で食べた物の食器や使った場所を片付けているだけだ。

そんなものは万国共通ではないのだろうか。

だというのに何を関心したのか、どこまでも良い解釈の元にクラインはまじまじと北原を眺めている。

だが曖昧に濁す北原に、彼はふとした笑みをコボすと片手を伸ばした。

「だが今は良いのではないか?おいで」

「・・・ぁ」

クラインの手が腰に回される。

そうして引き寄せられると、膝立ちでテーブルを拭いていた北原は抵抗も出来ないままバランスを崩した。

転倒する恐怖心と、体勢の不安定さ。

どうすれば良いのか判断が出来なかったが、それは多分一瞬で「あっ」という間に北原はクラインに両腕で抱き込まれていた。

「直哉は、やはり軽い」

「レイズ、あの・・・」

「嫌か?」

「そういう、訳では・・・」

あぐらをかく彼の膝の上に背中を預けるよう座らされると、鼓動が早鐘に鳴り始める。

空いている出て彼の腕に触れる。

己の物とは比べものにならないがっしりとしたそれは力強く、容易には離さないと言われているようだ。

「・・・レイズ」

「どうした?」

「いえ」

何度か唇を開閉させたものの思い浮かんだ多くの言葉を飲み込み、北原はテーブルへ布巾を置いた。

此処が、抱きしめられているという現状が、決して嫌なわけではない。

ただ不意に有無を言わさぬままにされたのでどうにも緊張をしてしまうのだ。

見慣れた自室にクラインが居る。

それだけでも十分に緊張ものだというのに、これ以上の触れ合いがあればどうなるというのか。

だがそれは免れないだろう。

今夜、クラインは此処へ泊まる。

それがどういう事であるのか考える間でもなく、料理から始まった食事の間中忘れていた事実を思い出せば、心音は耳へ届くまでに大きく鳴った。

それを知ってだろうか。

後ろから抱きしめたまま、クラインは北原の耳へと唇を寄せると息を吹きかけるようにしながら甘く囁いた。

「直哉、こんなにも愛しいと感じた人は初めてだ」

「・・・あ、あの」

「手作りの料理の暖かさを教えてくれたのも直哉だ。私はどんどんと君を離せなくなっている」

「レイズ・・・?」

その口調は真摯で甘かな声音とアンバランスだ。

早鐘の胸の鼓動が収まったかと思うと一度大きくドクリと鳴り、それを合図としたように北原はクラインの腕へ触れるとゆっくりと振り返る。

身長差のある彼は、座っているとずいぶんと目線が近づいた。

「僕が、教えた、ですか?」

「あぁ。母は料理をしない人だったし、昔から両親とも忙しい人達だったからね。家族で過ごす時間にも覚えがない。大人になってからも・・・上辺ばかりの付き合いだったよ」

「・・・ぁ」

彼の生まれと、育った環境。

多くなど知らないが、それでも想像を出来るものもある。

先ほど食事をしている時にも感じた感覚は正しかったようだ。

見つめ返せば彼は、寂しげにも嬉しげにも感じられるひっそりとした笑みを浮かべていた。

「レイズ、僕は・・・僕は、これからも貴方と───」

一緒に居たい。

生まれた環境どころか国すらも違うけれど、そんな物はなんて事の無い事なのだろう。

違うならば合わせれば良いし、知らなければ知れば良い。

たったそれだけの事だ。

「直哉、あぁ・・・直哉、愛している」

「レイッ・・・んっ」

後ろから抱きしめられた腕を解かれ、互いの唇が重なり合う。

熱い吐息を零しながら啄むようなキスを交し合えば、直ぐにクラインの舌先が北原の唇を割りその奥へと侵入した。

「ふっ・・・んっ・・・」

瞼を開けていられない。

ただ座っているのも困難で、北原は縋るように両腕をクラインの首へと回し目を瞑った。

心音がバクバクと鳴っていて、彼にも聞こえているのではないかと思う。

けれど今はもう、それは緊張からではない。

言葉に出来ない愛しているの想いを唇にぶつける。

そうすればする程、身体中を甘い痺れが走りぬけた。

これだけでは足りない。

これだけでは、彼を愛しているのだと伝えられそうにはない。

胸を、腰を、密着させる。

クラインの首へと回していた腕をその背中に回せば、広いそこをまさぐった。

───夜はこれから。

甘い時間は一晩中続くだろう。

それは、心のどこかで待ち望んでいた幸福。

唇を微かに離した北原は、顔中を赤面で染め上げると、すぐ後ろのベッドへと彼を誘ったのだった。

【おわり】







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