ヤクザものシリーズ・お礼用SS
(実のクリスマス・1)



「その手を重ねて」より一ヶ月くらい後のお話です。


冬も本番となり日に日に寒さが増してゆく。

けれど一歩室内は冷たい北風などお構いなしで空調設備の整っている。

汐留の高層マンション上層階のその部屋で、長谷川はダイニングテーブルで実と隣り合い座っていた。

「じゅんくん、これ」

「これ・・・ですか?なんですかこれ?」

「おにんぎょ。おんがく、おんがく、なる・・・の?」

「いやぁ、俺に聞かれても」

テーブルに置いた大型のノートパソコンをのぞき込み、互いに首を捻った。

画面に映し出されているのは、いかにも輸入品だとばかりのデザインの物だ。

実が言うように多分人形なのだとは思う。

布で出来中に綿が入っていそうだという意味ではそうなのだろう。

だがそれは、何を表しているのかいまいち分からないし、ましてや愛らしいと長谷川は思えなかった。

ピエロなのか何なのか、人型のような形に奇抜なデザインの衣類を着ている。

髪は緑で毛糸で出来ているようだ。

満面の笑みが気味の悪さを伝え、日本人が好み日本人がデザインをしそうな一品ではなかった。

「ほか、何か無いですか?せめて犬とか猫とか・・・ってこれはコレだけなのか」

このピエロらしきぬいぐるみにはメモリカードが差せるようになっており、内蔵のスピーカーからMP3で音楽が流れる構造のようだ。

そしてぬいぐるみの種類はこれ一つだけであった。

「実さんが欲しいんでしたら、良いとは思いますけど・・・」

「んー。べつのでもいい。どうしようね。こまったね」

「困りましたねぇ」

マウスを操作し、同じサイト内の別のページを適当にクリックしてゆく。

今二人で見ているのはアメリカの輸入品雑貨、特にチャイルド向けのポップな商品を扱う店のウェブショップである。

画面左上部にはアルファベットで書かれたサイトロゴ。

そしてその隣には、いかにもアメリカらしい原色の緑色のクリスマスツリーが描かれていた。

現在は十二月中旬。

世間はクリスマスムード一色で、実もまたご多分に漏れずだ。

現在実が頭を悩ませるのも同じくで、つまるところサンタクロースからのプレゼントを選んでいる最中であった。

「みのね、なんでもいい」

「何でもじゃ困るんですよ」

「なんで?」

「サンタさんが実さんのプレゼント選べないからです」

「そっか」

実際は、実がプレゼントを決めなくて困るのはサンタクロースなどではなく長谷川。

その理由は、実の恋人にしてサンタクロース、そして長谷川の上役である遠藤から制裁を食らいかねないからだ。

そもそも実は18歳の青年で、サンタクロースで騒ぐ年齢ではない。

思考が遅いとは言え、よく考えれば年相応の思考が持てるのが実だ。

だがそれを踏まえた上で、言うなれば実は騙されていた。

「じゅんくん、サンタさんいつくるの?」

「12月の24日っすね」

「なにで、くるの?おおきいの、もてる?」

「車か何かじゃないっすか?大きさは・・・まぁ、要相談って感じで」

「はぁい」

実は物心ついた頃から病院育ちだ。

親の愛情も無い生活の中で、当然の如くクリスマスパーティーもなければクリスマスプレゼントもなかった。

だからこそ、遠藤はそれを実へおこないたかったようだ。

けれど「サンタクロースはトナカイのそりに乗ってやってくる」と言えば、それが事実でないと今から当日までには実が気づき兼ねない。

それを考慮したうえ、「サンタクロース」という人がプレゼントを持ってくるのだと遠藤は実に吹き込んでいた。

長谷川としては、世間のカップル同様に「恋人はサンタクロース」で良いと思うのだが、遠藤はどうしても「サンタクロース」に持って来させたかったらしい。

赤と白の服を着せる男を遠藤はいくらでも持っている。

「たのしみね」

「そうっすね。で、何にします?何でも・・・は無理かもしれませんが、まぁ、なんでも」

そうと口にしながらも、先ほど見ていた実用性もなさそうならば気味の悪い人形は避けたいと強く思う。

このアメリカ輸入雑貨のウェブショップは適当にネットサーフィンをしていてたどり着いただけだ。

長谷川にしてもこのショップに拘っているわけではない。

「実さん、鞄とかもありますよ。スクール行くのに使うような。あと・・・」

「んー。あ。あのね。いっぱいね。みのね、けーき。けーきたべたい」

「ケーキはどっちにしても頼みますよ。クリスマスケーキ」

「じゃね、いっこと、いっこで・・・・いっこといっこ」

「二つあっても腐りますよ。ってか、ケーキなんかいつでも買ったら良いんじゃないですか?」

もっとも、どのような何であっても実が望めばすぐに与えられる筈だ。

それを知っているだけに、わざわざクリスマスに合わせたプレゼントという形式ばった事にも長谷川は疑問を感じていた。

「じゃね、じゃね、みのね、りおちゃん。りおちゃんと、あそぶ」

「それ金で買えませんからねぇ。多分無理ですね」

「じゃね、ゆざわせんせ」

「余計無理じゃないですか?先生お忙しいし」

「んー」

そもそも、遠藤以外の人物と遊ぶ権利など、長谷川が遠藤に伝えられるわけがない。

そのような事をすれば、ただの伝達役だと理解した上で確実に拳を食らうだろう。

だがそうと考えた時、ふと長谷川は疑問に思い当たった。

実は何よりも遠藤が好きだ。

それはいつも隣にいる長谷川が一番に理解をしているつもりである。

だというのに今し方名があがったのは別人二人で、どうにもそこに違和感を感じた。

「理緒さんか先生って、頭はいらないんですか?遊ぶのに」

「いい」

「珍しいっすね」

「だってねもうね、ゆたね、みのの。だからね、ゆたにこ、ないからね、ゆたあるからね、いい」

「あー・・・そういう事ですか」

実にとって遠藤は特別なのだ。

特別過ぎて、当たり前なのだ。

言葉を言葉のままにしか受け取れない実は、遠藤の愛の言葉の全てを信じているのやもしれない。

多くのカップルが悩み続ける相手の気持ちを、実は疑わない。

それはとても凄いことなのだろう。

「じゃ、まぁ、何か物にしときましょうか」

「はぁい」

このまま話を続けても不毛だと、長谷川は実をノートパソコンへと誘導する。

素直に従った実とともに、決まりきらないプレゼントに頭を悩ませ続けたのだった。




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