ヤクザものシリーズ・お礼用SS
(実のクリスマス・2)



クリスマスプレゼントは、なんとか決まった。

それをサンタクロースに伝える為に遠藤へ知らせる必要があると言い、目の前で電話連絡をしたときの実の期待に満ちた眼差しはある種のプレッシャーだ。

スピーカーの向こうの遠藤にもすぐ前に居る実にも、緊張を拭えないまま長谷川は無事報告を終えていた。

それが数日前。

その後プレゼントが如何様になったのかは知れないが、だからこそ問題は起こっていないのだと解釈をしている。

プレゼントを決めるまではなかなかに大変であった。

プレゼントの類を一切を貰えない環境から、日常的に何でも与えられる環境へのシフトの激しかった実には、「特別な日のプレゼント」という概念がないようだ。

「ねぇ、じゅんくん。これ、これどこ?」

「何処でも良いですよ」

「どこ、でも?」

「あ、えっと、すみません・・・・ここ!ここにしましょうか」

「はぁい」

メインルームの中央壁際。

長谷川の身長程ある大きなクリスマスツリーに実は丸い飾りを取り付けた。

このツリーは当然の如く、実の為だけに贈られたものだ。

これについてもストレートにいきはしなかった。

まず、クリスマスプレゼントを迷っていた実はツリーが欲しいと言い出したのである。

けれどクリスマスに飾るツリーをクリスマスにプレゼントされていては遅すぎる。

その為「ツリーは遠藤に頼めば良い」と長谷川が提案した矢先、霧島組先代の中里泰平と石森時貞から大きな贈り物が届いたのだ。

それこそが、今此処にあるクリスマスツリー一式であった。

クリスマスに実が望んだ物が届いた。

だがこれはサンタクロースからではない。

届けたのが実の覚えのない中里か石森の小間使いであっただけに、それを理解してもらうまでにもそれなりの時間がかかっていた。

その時の事を思い出せば未だにため息が漏れそうであった。

「じゅんくん、つぎね、これ」

「モールですか。じゃぁこっち俺持っておくんで実さん巻いてってください」

「はぁい」

考える事の遅い実は、飾り付け一つとっても大変だ。

「何処でも良い」という判断が出来ない為に、その「何処でも」を一生懸命頭を悩ませ考えてしまう。

いっそ長谷川一人でやってしまった方が十倍は早く完成するのではないかと本気で考えない事もないが、そうしてしまえば何にもならない。

適度に場所を示しながらも長谷川は実の作業を手伝っていた。

思えば、実家でもそうだった。

こんなにも立派なツリーは無かったし、飾り付けも折り紙で作ったようなつまらない物ばかりであったが、それでもキャッキャと言いながら飾り付けをしていた弟たちをふと思い出ししてまう。

ふざけあう弟達を怒鳴り散らしながらも、並んでちゃぶ台の上でペンを走らせたのは今となっては良い思い出だ───とまで考えた時、それが真夏のイベントと記憶が混在していると思い当たった。

植物に飾り付けをして飾るといういみでは、クリスマスも七夕も変わらない。

「わぁ、ふわふわの、きれいね」

「そうっすね。でもまだまだありますよ」

「いっぱいね」

「疲れましたか?休憩しますか?」

「みのね、へいき」

「そうっすか。じゃぁもうちょっとやってしまいましょうか」

「はぁい」

赤や青や黄色、光沢があったりラメが纏っていたり。

可愛らしい細工の施されたオーナメントに鮮やかな色合いのLED電球。

いかにも現代的だと言わんばかりの飾りの数々は、中里ら自身が選び抜いた訳ではなさそうだ。

若い感性を持つ構成員に選ばせたか、販売店の人気商品を選んだのか。

もしくは販売スタッフにいくつもの質問をぶつけて選んだのやもしれない。

見たこともない筈の風景を思い浮かべれば、たった数年前まで勢力を振るっていたヤクザものの男二人がクリスマスツリーを選ぶ様はある意味恐ろしいものがある。

そういった意味も含め今時はインターネットの通信販売を利用すれば良いようにも思えるが、数度あっただけでもあの二人がその手の事に大変疎いと知っていた。

「じゅんくん、きれいね。きれい、なったね」

「はい。よかったですね、実さん」

「うん、よかったね。ときーと、たいへえにね。ありがとうね」

「そうっすね。あ、じゃぁ写真でも送ったらどうですか?」

「しゃしん?・・・うん。みのね、とる」

「じゃぁその為にも早く飾り付けしないとですね」

「はぁい」

もっとも、実が携帯電話で撮影をする写真は、手ぶれ補正の優れた最新のそれであっても大変ブレる。

つい最近中里と石森は写メールの見方を覚えたようであるが、当初ブレた写真を携帯電話が壊れたからだと思いこみ大騒動となった事もあった。

だがそれは実の技術ゆえだと理解をしてからは、どんなにブレていようとそれこそを喜んでいるようだ。

結局のところ、血のつながりはなくともあの二人は十分に遠藤の親そのものといえた。

「じゅんくん、これはー?」

「えっと、それはですね───」

クリスマスの準備は順調に進んでいる。

実の楽しげな笑みと共に、大きなツリーは完成させられたのだった。




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