ヤクザものシリーズ・お礼用SS
(実のクリスマス・4)


実の為にクリスマスを行いたい。

そう考えたのは直ぐであったが、そうしてみても一体何を行えば良いのかは至極頭を悩ますものであった。

何せ経験がなく、興味もない。

その為頭の中に良き案などある筈がなかった。

正確に言えば、子供の頃は全く無縁であったという訳ではないのだ。

実同様真っ当な子供時代をおくれていなかった遠藤を拾ったばかりの石森も、今の遠藤と同じくクリスマスを試みてくれた記憶はある。

その頃は中里も一緒で、まだ二人とも小学生かそこらだった。

そして遠藤も生まれて初めて真っ当にクリスマスを、そして家族の暖かさという物を知ったその出来事を嬉しかったと受け止めたとも薄らとだが覚えてもいる。

だが、後にも先にもその一回だけだ。

翌年のクリスマスが訪れる頃には、遠藤少年は既に虎の片鱗を見せていた。

クリスマスどころか誕生日や他の行事でも、祝うどころか家に居たかも定かではない。

あまり思い出したくない過去を思い出したところで何の参考にもならず、結局名案も浮かばないまま今を迎えていた。

「あのね、でね、くっらかーにね、ちーずのっててね、あとね、おにくもね、のっててね、でね」

「そうか。他は何があったんだ?」

ソファーで実を膝に乗せながら、遠藤は軽い口調で流した。

帰宅直後ひとしきり実を抱きしめた後、いつまでもコートすら着たままではいけないとラフな部屋着に着替えていた。

その間も実は絶え間なく今日参加してきた外語スクールでのパーティーの様子を話している。

アメリカ出身の講師も多くいるらしいスクールでは任意参加のパーティーが開かれるらしい事は遠藤も事前に聞かされていた。

あちらの雰囲気のクリスマスパーティーは如何様なものであったのか、全く興味がないとは言わないが、実の話しからだけではあまり想像も出来そうになかった。

「それからね、はむ、たべてね。えっとね、くっきいもね、たべてね、くっきいいっぱいね、いろんなの、あってね。せんせえがね、やいてね。やいてきたんだって」

「そうか、すごいな」

「うん。すごいね。あのね、けいちゃんもね、やいてくれてね、けいちゃんはね、みのにだけね、くれた」

「そうか、すごい・・・けいちゃん?・・・そうか、凄いな」

話半分に聞いていた遠藤は、聞き流しそうになった一言を耳に実の髪を撫でていた手を休めた。

実の言う「けいちゃん」は、鈴村恵子。

鈴村組組長の愛妻である。

その恵子と実がスクールを通じ個人的に仲良くしている事はもちろん知っているが、遠藤としてはただ気楽ではいられないのだ。

頻繁に実が恵子に贈り物をもらえば、そのたびに礼の電話は必ず入れている。

当初は礼を返したり、直接出向いたりとしたのだが、そうすると恵子が怒るので以降は電話だけに留めていた。

恵子いわく、仰々しくするなとの事だ。

そういった極道社会的な風習を恵子が嫌う傾向にあることも遠藤は知っている。

なんともやりにくい事だ。

けれどそのような遠藤の内心など知りもしない実は、跨がったその膝の上で機嫌良く笑ってみせた。

「あとね、かばん、もらったよ」

「・・・かばん?なんだそれ」

「あのね、けいちゃんにね、かばん、もらってね・・・」

言いながら実は遠藤の上から降りると、ソファーの後ろへと回った。

そこに何かが置かれていたのかという自体覚えがない。

長谷川からははっきりとした報告を受けてはいなかった。

直に年末とあり日中遠藤は遠藤で忙しくしていたからだろう。

独り言を呟きながら何やらを手にした実が遠藤の元へ戻る。

手にいかにもプレゼント包みだという柔らかい布か紙か判別のつかないもので包まれたそれを持った実は、一旦ソファーへそれを置き元のように膝に跨がった。

プレゼント包みは内容物よりも大きいのだろう。

広がったそれが実際にどれだけ必要としているのかは判断がつかなかった。

「みてぇ、これね、もらった」

「・・・嘘だろ・・・実」

「へ?なに?」

「いや・・・いや。・・・明日は朝一番で電話しねぇとな」

「だめだよ。あのね、きょうからね、けいちゃん、はわい、なんだって。だからね。おおみそかのね、まえの、まえの、ひまで、かえれないんだって」

よりにもよって、何故今日から出かけたのか。

何故長谷川が詳しい報告をしなかったのか、苦言は一つには収まらなかった。

実が膝の上に上げ広げた包みの中。

そこにあった真新しい鞄は、名高い高級ブランドの定番の柄のリュックであった。

濃い茶の革に金にも見える茶で全面にブランドロゴが描かれている。

遠藤自身は大して好きという訳ではなかったが、商売女にねだられ、そしてそれを与える事も器のでかさだと、何度もこのブランドには出向いている。

そして、だからこそ物の価格帯というものはどことなく分かるものだ。

「あしたからね、みのね、これつかう」

「そうか・・・よかったな」

今、実が使用しているリュックは若者に人気のあるスポーツメーカーのものだ。

そのほうが実に似合っていると思う。

だがこちらの方が、その十倍近くの価格だろう。

そんなものを貰っておいて、礼の電話一本でもすませられないが、それすらも行えないなど。

その全てが遠藤が悪い訳ではなく、恵子の性格からしても不快に感じるかは不明だが、そういった問題ではないのだ。

「ゆた、みのね、ありがと、いったよ。でね、そしたらね、けいちゃん、ぎゅ、してね、それでね」

「そうか・・・実はありがとう、言ったか。偉いなぁ」

反射的に口について言葉は、もはや抑揚という物が失われている気がする。

髪を揺らしながら何度も頷く実を見返す。

クリスマスとは、様々に複雑で面倒なイベントなのだと、遠藤は胸の奥に刻み込んだのだった。




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