ヤクザものシリーズ・お礼用SS
(実のクリスマス・5)


サンタクロースの好物はビスケットと牛乳だ。

キリストという人の誕生日にサンタクロースという人がやってくる。

その理由は分からなかったが、そもそも実には分からない事が多くあるのでそういうものだと認識をしていた。

クリスマスの朝。

めずらしく遠藤よりも早く目覚めた実は、いそいそとベッドから抜け出した。

昨日は楽しい一日だった。

スクールでクリスマスパーティーがあり、プレゼントを交換しあった。

実の持参分は長谷川が用意をしてくれたので何であるのか知れないが、交換で得たプレゼントは気に入っている。

それとは別に恵子からもプレゼントを貰ったし、夜には遠藤からも貰った。

クリスマスに大人は、家族や恋人にプレゼントをすると聞いていたが、実際に遠藤からもらえるとなんとも嬉しいものだ。

遠藤から贈られたのはマフラーと手袋で、どちらにも実の名前が刺されていた。

色は柔らかなクリーム色で、カシミアだと取り扱いメモが入っていたと目にはしたがそれ以上の事は実には分からない。

恋人にプレゼントを贈ると知っていた実も遠藤へ用意をしていた。

当初は実自身が気に入っている本を贈ろうと考えていたが、イタリア語で書かれたそれは遠藤は読めないだろうと長谷川に言われ断念。

次に思いついたのは数ヶ月前遠藤の誕生日の時に喜んでいたワンピースを着る事であったが、真冬の今着るには季節はずれだと長谷川がいうのでこれも断念した。

散々迷いたどり着いたのは、長谷川の提案で「マッサージ券」だったが、実手作りのそれを遠藤は至極喜んでくれた。

長谷川と一緒に画材屋へ行き綺麗な紙を買い、元からカードサイズのそれに言われるがまま、「いろいろもむ・けん。ずっとつかえる」と書いた。

何回も失敗し、結局は全てひらがなで書いたが問題はないと長谷川は言っている。

その券はいつ使用してくれるのか。

渡した瞬間から楽しみであったが、残念ながら遠藤はまだ使ってはくれていない。

「ぷれぜんと、さんたさん。ぷれぜんと」

眠い目を擦りながら寝室を出た実は、メインルームへと向かう。

寝起きで普段以上に動きの悪い足を引きずりながら一直線にクリスマスツリーを目指した。

明かりの点かない部屋も、カーテン越しに差し込む微かな光が明かりとなる。

迷うこともなくそこへと到着した実は、けれどツリーの下を見ると唖然とした。

念の為だと一周をする。

それどころか右からも左からも何周も回ってみたけれど、どこからどうみても、そこにプレゼントはなかった。

クリスマスの朝、ツリーのふもとにプレゼントが積まれている筈だったのだ。

「・・・ないね」

なぜ、ないのか。

もらえる資格がなかったのか。

信じ、楽しみにしていただけにその寂しさは大きい。

実が立ち尽くすしか出来ないでいると、不意に室内に明かりが灯された。

「実?なにやってんだ?」

「・・・ゆたぁ」

振り返れば、寝起きで上半身を裸のままの遠藤が居た。

いぶかしむ眼差しでこちらへと歩み寄る姿に、実は殊更眉を下げた。

「あのね、ないよ」

「は?何がだ」

「あのね、ぷれぜんと。さんたさん、こなかった」

ツリーの足下を指さす。

何度見てもそこには何もない。

しかし、実の元まで来た遠藤は、驚いた様子をみせはしなかった。

「そりゃ、ンなとこにねぇだろ」

「・・・、・・・なんで?」

「なんでって、クリスマスプレゼントは枕元って決まってるだろ」

「・・・、ちがうよ?」

遠藤は怒っているのかと思うほど眉間のしわを深く刻んでいる。

それすらも不思議に思いながら、実は首を大げさなまでに傾げた。

「ぷれぜんとね、つりーのね、した。いっぱいね、あってね。おかしもね、あるよ」

「・・・それ、どこの国の話だ?」

「あのね、あめりかとかね、ふらんすとかね」

「・・・此処は日本だろ」

「へ?」

大きなツリーと、沢山のプレゼント。

菓子や本や、様々な物がそこに積まれる。

クリスマスとは、そういったものだと思っていた。

実にとっての知識は、様々な分野において、和洋折衷だ。

海外で出版された本を多く読んでいるからか、元々の日本の家庭事情の知識が薄いからか。

日本と外国では文化の差があるのだと頭の隅では分かっていても、目の前につきつけるまで理解が出来ない場面も多々あった。

「悪いな、実。此処は日本だからサンタも日本式なんだよ」

「にほんしき・・・」

「プレゼントは枕元にある。一個だが我慢してくれ。菓子でもなんでも後でいくらでも買ってやるからよ」

「はぁい」

遠藤が手をさしのべる。

それを取れば、あっさりと抱き上げられ、寝室へと運ばれた。

お国柄の差があるというのは、様々な国の文化に触れれば触れる程理解をしている。

だがまさかサンタクロースにまで違いがあったとは大きな驚きだ。

あっさりと遠藤の言葉を信じ、そこへしがみつけば彼の素肌気持ちが良い。

パジャマ姿の実が両腕を遠藤の首に回していると、すぐに戻ったベッドの上に下ろされた。

「みの、ここ」

「しがみついてたらこれ、開けられねぇだろ」

「んー」

「ほら、要らねぇのか?」

「いる」

名残を惜しみながらも遠藤から離れる。

そうしてみると、確かにそれはあった。

「あった」

「だろ」

枕と枕に埋もれるように、緑と赤のクリスマスカラーのラッピングをされたそれがあった。

端につけられた金色のリボンも綺麗だ。

「ゆた、ゆた、あけていい?」

「あぁ、いいぞ」

遠藤から離れた実は、枕の下からそれを取り上げた。

丁寧な手つきでラッピングを開けてゆく。

サンタクロースにお願いをしたものは、果たしてそこにあるのだろうか。

楽しい緊張のなかそれを開けきると、実は満面の笑みを浮かべた。

「わ、あった。あったね」

「思ってたやつか?」

「うん。うん。かめさんのほん」

ラッピングに包まれていた一冊の本を取り出す。

生々しい亀の写真が大きく載っている、原色の緑が基調とされたそれは、イタリア語で書かれた亀の飼育方法の本であった。

長谷川と散々に話し合って決めた亀の飼育方法が書かれた本。

当初サンタクロースがそれを用意できるか分からないというので、確認を取るまで三日程掛かったのは思い出だ。

長谷川には、日本のサンタクロースは日本の物にしか詳しくないと実は聞かされている。

「うれしいね。かめさんのほん、うれしいね」

日本語の本は漢字が多く難しかった。

だがこれならばきっと実にも読めるのだろう。

喜びのあまり本を両腕に抱きしめる。

そうして遠藤を振り返れば、その途端実はその場へ押し倒された。

「・・・ぁ」

「良かったな、実」

頭も背も、ベッドとシーツが優しく包み込む。

けれど事態への反応は追いつかず、実はきょとんとして頭上の遠藤を見上げた。

「俺もプレゼントもらうとするか?」

「ぷれぜんと?」

「昨日、実がくれただろ・「「いろいろもむ券」」だったか」

「・・・へ?」

「どこ揉んでくれんだ?ん?どこでも良いんだろ?」

覆い被さる遠藤は、獰猛にニヤリと唇を歪める。

そうしながらも、彼は実の唇を撫でた。

それにどのような意味があるのか、時間をかけて考えれば実にも理解が出来たのやもしれない。

けれど相手は遠藤で、絶対に悪いようにはしないと信じている。

考える事放棄する。

わけもわからないまま。けれど遠藤を疑う事もなく実は満面の笑みのまま頷いた。

「うん、みのね、ゆたにね、なんでもするよ」

楽しいクリスマスイブの翌日のクリスマスの朝。

亀の本を枕元に丁寧に置いた実は、言葉巧みに促されるがまま遠藤の亀に口づけをしたのだった。


【完】

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