ヤクザものシリーズ・お礼用SS
(ぴかちゅの話し)


スクールを終え、日課の昼寝も終え、おやつも終え。

一人テレビを見ていた実を放り部屋を離れていた長谷川は、暫くして戻ると実がダイニングテーブルに向かっているのを見つけた。

ただ大人しく椅子に座り、テーブルを眺めている。

それ以外は目立った動作もない。

「実さん?何してんですか?」

いぶかしみ声をかける。

すぐに実は顔を上げたが、唇を開閉させるだけで返答は帰ってこなかった。

ただニコニコとしている様は、何か楽しい事なのだろうと予測出来る。

ますます不可解だ。

そうして、手にしていた携帯電話をポケットへと突っ込みながら実へと近づくと、ようやく長谷川は実の視線の先が目に入った。

「あのね、えっとね」

「・・・またぽち袋、ですか?」

「あのね、えっとね、ぴかちゅ、かわいいね」

「あぁ・・・なるほど」

テーブルの上には年玉が入っていたぽち袋が三枚。

それぞれ、遠藤・千原・長谷川からのもので、その全てに子供に人気のゲームのキャラクターが描かれていた。

中身の現金については遠藤の強い要望により、全額遠藤の管理下に納められている。

だがそれは、実にはさしたる問題ではないようだ。

三枚あるそれらはどれも違う絵柄である。

人気の作品とあり、販売されている袋の種類も多い。

遠藤の物を用意したのは千原で、事前に長谷川から実の好みを聞いていた為にこのような結果となったようだ。

もっとも、長谷川が実に渡そうと思い立ったのは前日、大晦日の零時を迎える直前だ。

たまたま入ったコンビニエンスストアでこの袋を見つけ、渡せば実は喜ぶだろう、ならば中には年玉を入れなければならないな、と繋がったのである。

本来ならば護衛という下の立場から渡すべきではない、という考えなど長谷川には存在しない。

「実さん、それ好きですね」

「みのね、ぴかちゅすき」

実がそれに興味を持ち始めたのはいつ頃からだったか。

アニメ番組やゲーム番組、町中でも他社とコラボレーションした商品やポスターを見かけるのでそれらを見ているうちだったのだろう。

息の長いキャラクターだ。

まだ実家に居た頃も弟たちが夢中に成っていたし、長谷川自身ゲームをプレイした事がある。

どこか懐かしくもあるそれは、見ていて安堵感があった。

そうしていると、長谷川はふと昔弟たちが騒いでいた事を思い出した。

「そんなに好きだったら、なんだったかな、えっと、専門店行ったら良いんじゃないですか?」

「せん、もんてん?」

「はい。頭に言ったら連れて行ってくれるかもしれませんよ」

「ゆた?」

「はい」

実がそのぽち袋を見ていたのは今日が始めてではない。

三日に一回かそれ以上、毎度嬉しそうに眺めている。

それ程までに好きならば、他のグッズを所有していても良いはずだ。

かのキャラクター達のグッズを扱う専門店があるらしい事を、まだ実家にいた頃に弟たちが言っていた。

もっとも長谷川の実家は決して裕福ではなく、むしろその逆で、キャラクターグッズの専門店など連れて行っている余裕はなかった。

その弟たちも今は成長しこのような物に興味もなくしているだろうが、実ならば喜ぶ気がする。

「ゆた、つれっててくれる?」

「実さんが頼まれましたら、たぶん」

「みのね、いきたいね。ぴかちゅ、いきたいね」

それまできょとんとしていた実が、パッと表情を明るくした。

さも嬉しげにする実に、長谷川もほだされてゆく。

しかし、にこにこと頭を降る実を眺めていると、長谷川はその先を無視出来なくなった。

これほどまでに嬉しげだが、しかし実は本当に意味を理解しているのだろうか。

ただ「遠藤が連れていってくれる」その一点が嬉しいのではないかと思えば、つられた笑みをひきつったそれに変え、長谷川は何気なさを装った。

「えっと、実さん?そこ、どんなとこか分かってます?」

「・・・せん、もんてん」

「じゃなくってですね、何が売ってるとか」

「ぴかちゅ」

「じゃなくてですね・・・」

無意識に首を捻る。

すると実もまた、長谷川と同じように首を捻ってみせた。

多分実は、「せんもんてん」というものが何かも分かっていない可能性がある。

分かっていないならいないで返答をしなければ良いのだが、それが「何故」なのかを説明するのも面倒だ。

「じゅんくん、ぴかちゅ、あるいったのに」

「えっと、あるんですけどね。なんていうか・・・そうだ、ホームページ見ましょう、ホームページ」

「ほーむ、ぺーじ」

長谷川にしても実際に訪れた事があるわけではない。

何年も前、弟たちの話を聞いただけで、もしかすると既に潰れているかもしれない。

「待っててくださいね、ノート持って来るんで」

「はぁい」

実が元気に返事をする。

そこに何が待ち受けているのかも分からないというのによく良い返事を返せるものだ。

言われずとも気がついたのか、テーブルに広げたぽち袋を一つに纏める。

その実に背を向け、長谷川は足早にノートパソコンを取りに向かったのだった。





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