三城×幸田・お礼用S・S・100のお題に挑戦!
(2・過保護)


三城宅のキッチンに鼻腔をくすぐる香りが立ち上がる。

全く料理をしない家主に代わり、そこに立つのはもっぱら幸田だ。

今日もまた仕事帰りに三城の家に行っては、疲れたの一言も言わず夕食を作っていた。

「あ、お醤油なくなちゃったな。」

幸田は手にした醤油の入っていたボトルを困った目つきで見つめる。

後一息で料理も完成する、という時になって醤油が無くなってしまったのだ。

足りないのは、ほんの小さじ一杯程。

諦めても許される範囲だろう。

幸田は煮えたぎる鍋を見つめて暫し逡巡したが、一人頷くとIHヒーターを「余熱」にし、エプロンを外しながら声を張り上げた。

やはり妥協は出来ない、との答えを出したのだ。

「三城さーん、ちょっとコンビにまで行ってきますね。」

脱いだエプロンを隅に置き、さっさと財布だけを持って玄関に向かう。

時刻は夜11時。

コンビニまでは徒歩10分。

そこまでの道は決して明るい訳ではないが、幸田とて20代も後半の立派な成人男性故、夜道が危ないという感覚はあまりない。

その為、三城が慌てて飛んで来るのは想定外だった。

「待て、一人で行く気か?」

リビングから玄関に続く廊下の扉を乱暴に開けた三城は、今にも家を出ようとしている幸田の腕を掴んだ。

突然の三城の行動に、幸田はキョトンと見上げる。

視線の先にある三城の表情は怒っている風に見えるのだが、何故三城が怒っているのか全く理解出来ない。

「はい。お醤油買うだけなので直ぐに戻ります。食事、遅くなってすみません。」

「そんな事はどうでもいい。俺も行く。」

「え?別にいいですよ、一人で。あ、三城さんもお買い物ですか?だったら僕が買ってきますよ。」

大丈夫だと幸田はニコリと笑って言う。

だが三城の面持ちはますます険しくなるばかりだった。

三城の真意が幸田に伝わらないのはいつもの事だ。

幸田の天然ぶりを、三城は可愛らしく思いながらも少し苦く感じている事を当の幸田は知らない。

「違う。夜道は危ないと言ってるだけだ。」

「え?でもまだ11時ですし・・・」

「もう11時だ。」

「三城さんだって危ないのは一緒です。それに仕事の帰りはもっと遅いじゃないですか。」

「そうだが、、、」

もっともな幸田の言い分に三城は息を呑む。

一見、明らかに正論を言っているのは幸田の方だ。

幸田にしてみては、自分と三城の夜道の危険度の差が解らない。

同じ男で年齢も大差はないからなのだろうが、容姿と体格の違いも重要であると気づいていないのだろうか。

ひるむ三城を前に、幸田はもう一度微笑んで見せる。

「三城さんはゆっくりしててください。じゃぁ、行ってきます。」

その微笑みが逆の意味で最後の一押しになってしまった事に、幸田はやはり気づいていない。

三城が幸田の夜歩き(ただのコンビにへの買い物だが)を禁じる理由は、そこにあるというのに。

「ダメだ。お前は出かけるな。俺が買ってきてやる。わかったな?」

「え?え?三城さん?」

一際声を荒げ、三城は言うだけ言うと幸田から財布をひったくり勢い良く家を出て行った。

一人玄関口に残された幸田は、訳も解らないといった表情で呆然とその場に立ち尽くしてしまったのだった。

「何だったんだろ・・・?」



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