ヤクザものシリーズ・お礼用SS
(運動会と理緒)



ある秋の日の夜。

理緒は、夕方もそこそこに帰宅した花岡と並びテレビを見ていた。

「んー・・なんだか落ち着くね」

「そうですね」

今日は調子が良かったので夕食も理緒が作った。

特別手の込んだ事は出来ないが、家庭料理ならば大失敗をしない程度には作れるようになっている。

もっとも、あまり手先が器用だとも、容量が良いとも言い難い理緒なので、時間は大抵レシピの横に添えられている調理目安時間の1.5倍から二倍は掛かっている。

だが、何時間かかろうともそれなりの物が出来上がるならばそれで良い。

今晩のメニューは、飲食店ではあまり見かけないと以前花岡が言っていたロールキャベツで、半分が崩れていたが味付けと煮込み具合は理緒の中では成功に含めたい出来栄えだった。

腹も膨れ、ソファーに座る隣には花岡。

ぼんやりとした時間は、それだけに満たされている。

「もう秋だね。へぇ、運動会のシーズンなんだ」

壁に掛けられた液晶テレビに映し出されたバラエティー番組では、最新アイデア商品の紹介をしていた。

その中で、運動会とそれに伴うアイテムの話題が取り上げられている。

「最近は春でも夏でもやってるみたいですけどね」

「そうなんだ。でも、やっぱり運動会っていうと秋のイメージだな。いいな、楽しそうで」

番組の再現VTRでは昼食の様子が流れ、紙製の取り皿が風に飛ばない為のグッズが映し出されている。

実際にどこまで効率的な商品なのかは理緒には分からないが、どことなく見ていて微笑ましい。

大きな重箱の弁当を広げ家族で取り分ける様子は、正に運動会独特の風物詩だ。

「僕、運動会とか無縁だったから、あぁいうのに憧れるよ」

「そうなんですか。理緒さんはいつも、留守番だったんですか?」

「留守番っていうか・・・こういうイベント事の時って、いっつも以上に体調崩れる事が多くてね。多分、見送りも出来ないくらい布団の中で丸まってたかな」

ふと思い出すと、羨ましいという感情ははっきりと覚えているものの、それ以外はおぼろげだ。

それも今となっては懐かしい良い思い出だと言えるのは、当時よりも確実に元気になったからだろう。

「それは残念ですね。学校行事は殆ど欠席ですか?」

「うん。学校自体にもあんまり行けてなかったから。それに、年一回施設で日帰り旅行に行くんだけど、それも一度も行った事がないなぁ。施設からだからね、そんな凄い所には行かないんだけど、でもそれも羨ましくて小さい頃は駄々捏ねた事もあったよ」

「理緒さんが駄々ですか。想像つきませんね」

「そりゃ僕だって、子供の頃は身体が弱いのを受け入れられなかったよ?どうして自分だけ、って思ってさ」

もはや内容など全く頭に入っていない番組が、別のコーナーへと移り変わる。

懐かしさから苦笑にも似た笑みを浮かべ、理緒は花岡へと寄りかかった。

身長差ゆえに高い場所にある花岡の肩に頭を預けると、リラックスをして力が抜けていく。

暖かさと安心感は隣にいるのが花岡だからこそだ。

「理緒さんでもそんな事考えてたんですね。てっきり、早いうちに受け入れてたのかと思ってましたよ」

「結局は受け入れるしかなかったんだけどね。でも、良いんだ」

今でも望んだ全てが行える訳ではないが、何もかもといって言い程何も出来なかった子供の頃は、一般家庭ではなく養護施設であった事もあり恵まれた生活ではなかった。

しかし、当時の想いで全てが苦い訳ではない。

寝込んでばかりの中でも楽しかった事も確実にあった。

そうでないなら、花岡と出会う時まで施設に居続ける筈もない。

「今は凄い元気だし、毎日楽しいから」

「そうですか。そや。せやったら今度、二人で弁当持って出かけましょか」

「お弁当、持って?」

「えぇ。運動会は無理ですけど、弁当つつくくらいなら出来ますよ」

肩に預けた理緒の頭を花岡がそっと抱く。

見上げた彼は、優しい笑みを浮かべていた。

「うん、良いね。行きたいな、お弁当持って」

「理緒さんがそう言ってくださるなら、早速今の季節に良いような行き先の目星をつけておきますね。あまり遅くなると寒くなりますから、次の休み辺りが良いかもしれませんね」

「うん、うん。行こう。すっごく楽しみ」

花岡を眺めたまま、理緒は声を弾ませる。

運動会も遠足も無縁の人生だった事もあり、初めての外で食べる弁当も季節の行楽も何もかもが楽しそうだ。

そしてそこに花岡がいるというのは、何よりの贅沢だ。

「どんなところかな。今からドキドキする」

「秋ですし京都とかでも良いかも知れませんね」

「京都かぁ。うん、きっと素敵だね。体調、崩さないようにしないとね」

冗談交じりに笑って告げると、花岡は返答の代わりに理緒の髪を撫でた。

秋の日の一夜。

週末を楽しみにする理緒は、今から落着けなくなっていたのだった。






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