ヤクザものシリーズ・お礼用SS
(突然の訪問者・前編)


それはある日の休日だった。
 
久々の休日とあり、遠藤は実を離さずに午前の時間を過ごしていた。

今日は特別な予定はなく、夕食はどこかに出かけて旨い物を食べれば実は喜ぶだろうかと考えているが、その程度だ。

ソファーの定位置に座り、遠藤は膝に乗せた実を背中から抱いていた。

「もうすぐ昼だなぁ。何食いたい?」

「えーとねぇ」

実の喜ぶ事といえば、SEXと食事くらいしか思いつけないのは情けない。

だが実が喜ぶならばそれが一番だ。

二人の間に、年齢の差や趣味趣向の差があるのは否めない。

黄色いネズミの出てくるアニメ番組の録画を見ていた実は、ふらふらと頭を振りながら遠藤を振り返った。

脳天気な笑みを浮かべている。

だがこういった時の実は、質問に対して答えがなかなか出てこないのだと今になり思い出した。

「えーとね。えーっとね」

「・・・」

「ごはんね、たべたいね」

こういった場合、どうしてやるべきか。

遠藤自身食べたい物もないので、提案も出来ない。

振り返っていただけの実が身体を捻り、遠藤と向かい合おうとする。

手足をばたつかせながら不器用にけれど賢明にそうする姿が愛しくて、遠藤は手を貸しもせずに実を眺めていた。

「飯、なぁ」

適当に舎弟に用意をさせても良いが、一度実に伺いをたててしまった以上無視も出来ない。

己の選択に今更ながら後悔を感じながら遠藤が言葉を探した、そうしていた時だ。

不意に、アニメ番組の音声よりも大きなインターフォンの音が鳴らされた。

「・・・誰だ」

この家のインターフォンが鳴る場面は極めて少ない。

千原や長谷川、もしくは隣の詰め所に居る日常的に家に出入りをする人物にはあらかじめ鍵を渡しているし、そうでない舎弟らは千原もしくは遠藤本人の承諾なくして家に入る事は出来ない。

宅配便もセールスもこの家には来ないし、ほかの訪問客も多くは事前に連絡が入る。

いぶかしみながらも、舎弟一人居ない部屋で遠藤は渋々実を膝からおろすと立ち上がった。

「あいつら、何やってんだ・・・。・・・」

そもそも、インターフォンの前にエントランスのオートロックを解除しないといけない。

そこにも疑問を感じていたが、しかし壁にはめ込まれたインターフォンに内蔵された監視カメラのモニターに映し出された姿を見たとたん、遠藤はある種の納得を得た。

彼がエントランスを通れたのは、この家ではなくどこぞの詰め所の解除キーを入力したからだろう。

わざわざ家の前まで押し掛けたのも、こうした方が突き返される確率が低いと考えたのではないか。

モニターの中の人物は、カメラに向けふざけた顔を作って見せる。

それをいつまでも見ていたくはないと、遠藤はインターフォンに応える事無く直接玄関へ向かった。

開けっ放しの仕切扉を通り、玄関の照明をつける。

遠藤の意志とは無関係にあふれ出るため息を吐き出し、玄関扉の鍵に手を伸ばした。

背後でインターフォンが続けざまに二度鳴った。

早くしないとまた繰り返し鳴らされ、実が奇妙に思うだろう。

開けたいか開けたくないかと言えば開けたくはなかったが、突き返すにしても招き入れるにしてもこのままでは居られない。

もう一度吐いたため息と共に覚悟を決める。

またも鳴らされたインターフォンに急かされ、遠藤は鍵を開けた。

「───・・・何しに来やがった」

「いきなりそれかよ。昼飯、食いに行こうと思ってな」

扉が開いただけの距離で、牧田が楽天的に笑った。

霧島組の次団体の組長にして遠藤と並ぶ霧島組の若頭である牧田は、遠藤とも古くからの付き合いだ。

休日であるにも関わらず、グレーに大きな黒いバラが描かれた開襟シャツでスーツを着こなす彼はどこからどう見てもヤクザである。

「悪いが、俺は実と食う。帰れ」

「何言ってんだ、誘ってんのはお前じゃなくて実だ。まぁ、お前も、来たいなら来ていいけどよ。実は居るんだな。中か?」

「てめぇなぁ・・・」

遠藤が手のひらで支えていた扉の側面を牧田が掴む。

そこに遠藤がハッとした時には遅く、牧田は扉を引き開けると部屋の中へ顔を覗かせたのだった。



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