極道と舞姫シリーズ・お礼用SS
(クリスマスについて)



それは何気なく過ごしていたある十二月上旬の事だった。

「もうどこもかしこもすっかりクリスマスだね」

「そうだな。今まで気にもしなかったが、賑やかなもんだ」

半同棲と言って過言ではない黒川の家は、夏樹にとってもリラックスの出来る場所だ。

どかりと背もたれに寄りかかる黒川の一方、気を抜いた夏樹は両足もソファーの上に上げ彼の肩や腕に身体を預けた。

二人の視線の先には大きな薄型テレビ。

以前は使用頻度も少なかったというが、夏樹が入り浸るようになって以降、部屋自体の使用頻度が上がりテレビもそれに比例しているという。

画面の中ではクリスマス商戦に向けての新製品紹介や、人気のスイーツ店のクリスマスケーキやレストランの情報が紹介されていた。

「クリスマス・・・な。どこに行ってもカップルだらけだろうな。ンな中男二人で歩いてるだけでカミングアウトしてるようなもんだ」

「あ仁、俺さ・・・」

「ま、別に俺としちゃぁそれでも・・・」

「俺さ、クリスマスは舞台」

「何?ンな日まで舞台あるのか?」

「そんな日だから舞台があるんだよ」

黒川に寄りかかったまま顔を上げる。

こちらを見下ろす彼と視線がかち合ったが、眉間に皺を寄せる彼の感情までは分からなかった。

「『くるみ割り人形』ってクリスマスの話しがあってさ。この時期にこの舞台するのが定番なんだよ。俺も大抵どこかのバレエ団に呼ばれる」

「・・・そんなものなのか」

「そう。あれ?もしかして何か予定してた?」

ふと黒川から離れると、夏樹は隣り合うように座り直した。

夏樹も、皆が賑わうクリスマスデートに憧れないわけではない。

だがここ数年、クリスマスはイブも当日も舞台で、それに伴い12月はバタバタとしている場合が多かった。

もっとも、それ以前にここ数年は恋人もおらず、舞台がなかったとしてもデートをする相手がいなかったのも事実だ。

広いソファーで肌が触れ合う距離に座る黒川を覗き込む。

すると彼は、その分だけ顔を背けた。

「・・・別に」

「なんだよ、その間」

「別につってんだろ」

「ふーん。だったら良いけど。まぁ、男同士だもんね。どうでも良いよね」

「男同士だがそれ以前に恋人同士でもあるがな」

結んだ唇で、黒川が夏樹を眺める。

怒ってはいない。

だが笑ってもいなくて、やはり感情は読めなかった。

「で?舞台は二日ともか?」

「そうだけど」

「だったら二十五日は打ち上げもあるんだろ?」

「そうだね。今年最後の舞台だって人も多いし、忘年会もかねてじゃないけど・・・」

「なら、次の日は遅くて良いんだろ?」

「うん。っていうか、休み。来年十日まで休み。自主トレはするけど───」

「だったら決まりだな」

「え?」

断言的に言うと、明確な答えなど分からないまま黒川は立ち上がり、さっさと夏樹に背を向けキッチンへと向かう。

ワイシャツの後ろ姿は男らしいが、見惚れるには見慣れた姿になり過ぎた。

「決まりって?」

「終わる頃に迎えに行く。日、変わる前には会えんだろ」

何気なく言う黒川は、夏樹を見もしないまま冷蔵庫を開ける。

やはり一方的だ。

彼のそういった所も嫌いではないが、それとこれとは違う。

ソファーに座ったまま彼の後ろ姿を見ていた夏樹は、立ち上がるとキッチンへ駆け寄った。

「仁、それってさ」

「ケーキは要らねぇだろ。酒も飲んで来んだろ。飯って時間じゃねぇし。何もねぇな。だったらいつも通りだ」

「仁、俺さ」

「それもなんだなぁ。あぁ、だったらプレゼントくらい用意するか」

「仁、だからさ!」

冷蔵庫の前の黒川へ追いつく。

声を掛けても止まらないなら、一方的に話すばかりの黒川を叩いてやろうかとも思った。

だが冷蔵庫を閉めながら振り返った彼は、夏樹の利き手を塞ぐよう冷えた缶ビールを押し付けた。

「なんだ?名案でもあんのか?」

「名案っていうか」

「それとも拒否してぇってか?」

「そういう訳でもなくて、だからさ」

反射的にビールを受け取る。

しかし夏樹は、開けもせずに空の手で咄嗟に黒川の服の裾を掴んだ。

「俺にだって、考えさせて」

「何」

「俺だって、仁と・・・・過ごしたい。から」

「夏樹」

「プレゼント、用意する。イブじゃないけど、でも」

「あぁ、構わねぇよ。別に、誰かの誕生日を祝いたいわけじゃねぇんだ。ホテル、取っててやる」

「今から取れるの?」

「さぁな。当日じゃねぇし、まぁ・・・なんとかなんじゃねぇか」

曖昧な返答で、黒川は自信ありげに笑うので、その笑みを見ていると言葉一つ一つが本当に叶う気がしてゆく。

彼と過ごすクリスマス。

その日を楽しみにしながら、無言で缶ビールをぶつけ合ったのだった。



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