三城×幸田・お礼用S・S・100のお題に挑戦!
(3・三日月の夜)

深夜だというのにカーテンを開け放った掃き出し窓に手を付いていた幸田が、外を眺めながら三城を手招いた。

「三城さん三城さん、見てください」

幾分弾んだ声をしているのは、アルコールのせいだろうか。

襟足から覗くうなじが、ほんのりと桜色に色づいている。

幸田は三城の返事を待たず、窓を開けるとフワフワとした足取りでバルコニーへと出て行った。

「どうした?」

無防備な事この上ない幸田を苦く思いながらも、全く酔えていない三城ははっきりした意識の中、幸田の後を追って外へ出る。

春先とはいえ、この時間では風がとても冷たい。

酔えなかったのはアルコールの摂取量が少なかったからか、幸田と一緒だったからか。

もっとも、三城は前者だと言って譲らないだろうが。

そんな三城の心中など知るはずも無い幸田が、無邪気な笑みを浮かべる。

「アレ、見てください」

幸田が指差す先には、漆黒の夜空と、そこにただ一つ浮かび上がる月があった。

「三日月か。」

「綺麗ですね。」

東京では珍しいまでにくっきりと、まるでペーパークラフトのような三日月だ。

「あぁ、そうだな」

促されるままに視線を上げた三城だったが、その神々しいまでの黄金色に見入ってしまった。

月をこんなにゆっくりと眺めるのはどれぐらいぶりだろうか。

忙しなく生きている自分を改めて目の当たりにした気分だった。

三城がひっそりとため息を吐いていると、幸田はクスクスと笑い始めた。

「どうした?」

「思い出しちゃって。月にはうさぎが居るって言うじゃないですか。子供の頃、三日月になったらうさぎさんは滑って落ちちゃうんじゃないか、って本気で心配してたんですよね。」

当然だが、三城の知らない幸田の子供時代。

だが容易に想像出来るその姿に、三城は頬を緩めた。

「それは大変だな。」

「えぇ、だから月が翳らないようにお願いしてた事もありました。」

「叶ったか?」

「まさか。」

「だろうな。月は翳るからいいんだ。」

「そうなんですか?」

「綺麗な物がずっとそこにあると、誰かに取られるだろ?薔薇には棘があるし太陽は熱い。攻撃力の無い月だからこそ、自分から姿を消して行くんだよ。」

そう言うと三城は、片手で幸田を抱き寄せ唇を塞いだ。

自分から翳れないなら、俺が翳らせてやる。

他のヤツにその美しさを披露してやる義理なんてないんだ。

抱きしめる力は強くなり、口付けは次第に深い物へと変化してゆく。

まるで三城の気持ちと同じように。

それは想いを伝え合った日と同じ、月明かりの下の出来事。

+目次+