霧島シリーズ・お礼用SS
(季節限定商品)



行きつけの小料理屋・花ぐるまから帰路についていた倉田は、コンビニエンスストアのレジ前の棚で腰を折った。

「お、もうそんな季節か」

腰よりも低い高さの簡易テーブルには、赤やピンクの苺模様が描かれた紙箱。

数種類の大きさやデザインのあるそれらには、揃いも揃って「季節限定」の文字が踊っていた。

普段は茶色か白のチョコレートしかないシリーズも、今は苺味が販売されている。

その中で、倉田は正方形に近い黒い箱を取り上げた。

ロゴマークと模様、そして苺のワンポイントだけが赤いそれは可愛いらしさよりも大人向けの印象をひしひしと伝えている。

「これこれ。やっぱ、一回くらい食べとかないとな」

特別甘い物が好きなわけではない。だからといって嫌いでもないが、事これに関しては好きだった。

一個包装のチョコレート菓子。

二種類の苺チョコレートを更に苺のパウダーでコーティングをしてあるのだが、甘すぎず濃厚な味が他とは違う味わいだ。

いつだったか、たしか牧田に無理矢理口の中に押し込まれたのがきっかけだったと思う。

自身の気に入りの菓子をどうしても教えたかったと笑っていたが、まんまと彼の意中にはまってしまい、以降季節限定販売のそれをこうして見かけるとつい購入していた。

「これで良いな。めぐちゃん、レジするぞ」

缶ビール六本セットと、スルメと乾燥ホタテ。

総菜パンとインスタントのコーヒースティック。

そのうえに今手にしたばかりの菓子の箱を乗せ振り返ると、その先に居た環はゆっくりと倉田へ顔を上げた。

花ぐるまで待ち合わせをして食事をした環も仕事終わりだ。

感情を感じさせない面もちで瞬きを一つする。

手には倉田の物と同じ総菜パンを持ち、飲み物の並ぶ棚を眺めていたようだ。

じっと倉田を見る。

時間にして数秒。

それが環の中の何を変えたのか、一つ頷き彼は足を倉田へと向けた。

「めぐちゃん、他に欲しい物ある?」

「ない」

「そっか。プリン・・・は家にあるな。パンもちゃんと持ってるし、よしじゃぁ・・・」

「倉田は、なんだ」

「え?何って?」

「それは何を持っている」

「それ?どれ?・・・あ」

表情と同様に抑揚の薄い環が、真っ直ぐに倉田の抱える腕の中を指さす。

どれもこれも有り触れた、日常的に購入している物だが、その中で唯一一番上に乗っている箱だけが非日常だ。

「これか。これ季節限定のお菓子。めぐちゃんも食べた事ある?」

「ない」

「そうか。じゃぁ季節限定じゃなくても普段の食べたことある?」

「それもない。菓子は、たべない。それに」

「ん?」

「それは、知らないから、知らない」

「・・・そういや、そうだな」

真っ直ぐな眼差しの環が真っ直ぐに言葉を告げる。

ふざけているわけでも冗談というわけでもない環に、倉田は自嘲の笑みが上がった。

言葉を選び間違えたのは明らかに倉田だ。

法医学者といういかにも知的な職につく環は、頭脳という意味では一介の刑事でしかない倉田よりも随分と勝るだろう。

けれど環には融通というものが殆どといって良いほど利かなかった。

毎日同じ物を同じように選ぶのが得意で、突発的な物を選ぶのは苦手。

倉田と交際を続けるまでは毎日毎日何年も夕食はオムライスだった。

その環が、期間限定商品を買った事がある筈がない。

「じゃぁ、めぐちゃんも食べる?旨いぞ」

「・・・倉田が、たべるなら」

「食う食う。じゃぁもう一個めぐちゃんの分もな」

いつからだっただろうか。

環の中で、「毎日同じ物」から「倉田と同じ物」へと変化した。

それは急にではなかったし、少しずつ気づきにくい程度ゆっくりだ。

黒く四角い箱を持ち上げる。

それを抱えた商品の上にもう一つ追加すると、倉田は今度こそレジカウンターへと向かった。

「そういや、さっきプリンの苺味もあったぞ。それも季節限定だって」

「プリンの、いちごか」

「それは俺も食った事ねぇけど、めぐちゃん明日試してみる?」

「・・・倉田が、食べるなら」

「俺かぁ。俺、プリンはなぁ」

「倉田が食べないなら、僕も良い」

「・・・そう来るか・・・ぁ」

倉田がカウンターに商品を置く。

店の置くから店員が小走りにやってくる間に、手に握っていたパンを置いた環はその手で倉田のジャケットの裾を握った。

十センチ以上低い場所から見上げるその眼差しが、真っ直ぐに倉田へと突き刺さる。

表情や声音から感情が伝わりにくい。

けれどその環の眼差しだけは、素直な色を称えている。

どうやら今は、楽しげなようだ。

「帰ったら、食わないとな」

「何だ。チョコレートか」

「いや、めぐちゃんを」

表情も声も変化の少ない環が、一番に変化を見せる場面。

シーツに流れる黒髪と共に思い出すと、つい頬が緩む。

腹よりも満たされたいのは欲情そのものだ。

コンビニエンスストアの店員が口先で謝罪を口にしながらカウンターへと入り、倉田と環の置いた商品のバーコードを打ち込んでいく。

その様子を眺めながら、倉田は片手を後ろへ回すとそっとジャケットを握る環の手を握ったのだった。
 



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