三城×幸田・お礼用SS
(恭一の誕生日に)



沙耶子主催の一泊二日の温泉旅行を終え、恭一は三城と共に帰宅をした。

「楽しかったね」

「恭一がそう言うなら何よりだ」

午前九時のチェックアウトと共に三城家の人々とは別れたが、帰路の途中三城とデートを楽しんだ。

身体の疲れはあれど、充実感はいつにない程満ち溢れている。

二人分の荷物を一つに纏めたバッグを三城が足下に下ろす。

恭一がソファーに腰を沈めていると、休むことなくキッチンへ立った三城がコーヒーミルに触れた。

「飲むだろ」

「うん、ありがとう。春海さんは疲れてないの?ずっと運転してたのに」

「たかだか二時間程度だ。疲れる程でもない」

「そうかもしれないけど、遠出した疲れとか」

「二時間の移動は遠いとは思わん」

慣れた手つきでコーヒーミルへ豆をセットする。

電動のそれが唸る音を耳にしながら、ソファーの背もたれに身体を預けた恭一はぼんやりと三城を眺めた。

フライト時間十数時間の海外出張も頻繁におこなっている三城だからこそのセリフだ。

改めて、住む世界が違うなと思ってしまう。

三城が止まるには日本は狭いのだろう。

大きなピラミッドの頂点、CEOにも必要とされており、恭一には想像もつかない事柄ばかりだ。

「そういえば、来週か再来週も出張って言ってたっけ・・・」

こうも頻繁に長時間の移動が必要だというのは、いっそ移動時間がもったいないように思う。

だが、それを受け入れたうえで三城が現地、ニューヨークの本社に居続けない理由を良く理解をしているつもりだ。

楽しかった誕生日の温泉旅行の直後。

不意に浮かんだ申し訳のなさが胸を占めていく――、と考えていた時だ。

コーヒーの良い香りが漂い始めた中、唐突にチャイムが鳴り響いた。

「・・・ぁ」

「俺が出る」

「あ、ありがとう」

ソファーから腰を浮き上がらせかけた恭一を制するよう、キッチンから出た三城が壁にはめ込まれているインターフォンへ向かった。

珍しい事もあるものだ。

三城がコーヒーを入れる自体はよくあるが、キッチンに立っている確率とインターフォンに出る確率は断トツに恭一が多く、そしてそれを三城がソファーから眺めているというのが日常的な配置だ。

それもこれも、誕生日の為に気を使ってくれているのやもしれない。

インターフォンの対応の後キッチンに戻りコーヒーメーカーへスイッチを入れていると、もう一度インターフォンが鳴らされた。

「来たか」

「春海さん?」

「宅配便だ」

「あぁ、そうなんだ。・・・宅配便って、何か届く予定あったかな」

宅配便に恭一は覚えがないので、三城の用件もしくは商品の到着と考えるのが妥当だろう。

日中働いて居るため、最近はネットショッピングに頼る事が増えた。

大手国内ネット通販サイト二・三件で用件の大半を済ませる恭一とは違い、三城は国内外を問わず様々なサイトを利用しているようだ。

三城の消えた玄関へ続く仕切扉を見つめる。

だがそこを見ていても何もあるわけではないと、恭一はようやく立ち上がると今は無人のキッチンへ向かった。

三城がコーヒーを淹れる事はあっても、カップのセットはもっぱら恭一の仕事だ。

整頓された作業台に二人分のコーヒーカップとソサー、それからスプーンと恭一の分だけの砂糖とミルクを用意する。

後はコーヒーが沸くのを待つだけで、三城に任せれば良い。

黒い滴を垂らすコーヒーサーバーを眺め、ありふれた日常に頬が緩む。

「どうした?カップを出してくれたのか」

「あ、春海さん。うん、後お願いする・・・え?」

玄関から戻った三城を何気なく振り返った恭一は、そこに居た彼に息を呑んだ。

正確には、彼の腕の中の物にだ。

「え?春海さん、それ」

「恭一へだ」

「僕?」

「誕生日プレゼントだ」

三城の腕一杯に抱えられていた、大輪の花々。

様々な種類の花が我こそはと咲き誇り、その間から顔を覗かせるかすみ草が可憐さを表してる。

包みもリボンも水色で、中央に真っ白なカードが刺さっていた。

立ち尽くす恭一に、三城が花束を押しつける。

両腕で抱いたそれは、心地よい重さがした。

「あ、ありがとう。昨日もプレゼント貰ったのに、こんな立派なお花・・・」

それも、帰宅直後のこのタイミングで。

やはり三城はスマートで何事にも抜かりはない。

目尻が熱くなった。

高まる胸では言葉が上手く表せず、ただ潤む瞼で三城を見上げる。

だが、視線の先で三城は、渡された花束とは不釣り合いな程深く眉間に皺を寄せていた。

「誰が俺からだと言った」

「え?違うの?でも、じゃぁ・・・」

「レイズだ」

「え、レイズさん?」

「正確に言えば会社名義だろうがな」

「会社?え?」

不機嫌そうな三城と、豪華で華美な花束を見比べる。

頭上に疑問符を浮かべるしかない恭一が理解に達せずに居ると、三城はわざとらしくため息を吐き出した。

「アメリカでは、社員の配偶者に会社から誕生日プレゼントを贈る事も珍しくない」

「あ、そうなんだ」

「だが恭一は、正式に配偶者という訳じゃないだろ」

「そりゃ、その、男同士だし・・・。あ、じゃぁ、これ貰ったら悪いって事?」

「そんな事を言ってるんじゃない。会社から配偶者へ誕生日に贈り物が出来るのは、その情報が会社内部にあるからだ。それを元に担当の部署が手配をする」

「・・・あ」

「恭一は、緊急時を考慮して家族として簡単なプロフィールは届けている。それを見たのか、本当の関係を知っているレイズが、余計な気を回したのだろう」

呆気にとられ、三城を眺めるしか出来ない。

あまりに遠い世界で、極々普通の日本中流家庭に育った恭一には馴染みのない事ばかりだ。

「これもだ」

「え、何?・・・ぁ」

花束の中から、白いメッセージカードを三城が取り上げる。

二つ折りのそれを広げると、内側も白くただ凹凸で花の模様があしらわれており、シンプルな中で黒い文字が走っていた。

『素敵なパートナーとして、今年も一年春海を支えてください。恭一さんにより多くの幸せが訪れますように』

「これ・・・」

「レイズの字だ。普段ならノータッチだというのに、わざわざ・・・」

「レイズさんが・・・」

「まぁ良い。受け取っておけ。あぁ、一応言っておくが、礼など必要ないからな」

「あ・・・うん」

三城がカードを台の上に置き、キッチンへと入っていく。

腕の中の花束を改めて眺めると、それはやはりとても華やかだった。

ずっしりと重い、花束。

花に詳しくない恭一が見ても高価なのだろうと思わずにいられない大輪の花々が、物の価値以上に胸を震わせた。

「・・・支えて、だって」

社交辞令や、常套句だとは分かっている。

一体どちらが支えられているのか、胸を張れる立場でもない。

けれどそれでも、どうにも頬が緩んでしまう。

三城を日本に縛り付けている自覚はあるが、しかし当面の間は許してもらうしかない。

「恭一、コーヒー出来たぞ」

「あ、うん。これどうしようか」

「その辺置いておけ」

「そんなわけにいかないよ。花瓶・・・花瓶なんてあったっけ?」

花束を抱えたまま三城の元へ駆け寄る。

最高の誕生日。

それはまだ、週末が終えるまで続きそうだ。




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