ヤクザものシリーズ・お礼用SS
(ハンバーガー屋にて・前編)



昼過ぎに外語スクールを終え、恒例のケーキタイムも終え、長谷川は実の腕を引いていた。

「あぁ、これですね」

「かわいいね。おはなしもね、するね」

「そうですね」

外語スクールの入る駅ビル内の一角で、店の外観を見上げる。

毎日のようにテレビCMを目にし、至る所で多く見る、大手ファーストフード店。

イメージカラーの赤と黄色が目に鮮やかなそこへ一つ頷き、長谷川はガラス扉の自動扉を潜った。

「あ、すいてますね」

「すいてるね。よかったね」

「そうですね」

昨日の夕方に受けた実からのリクエストで、今日の昼食はハンバーガーに決定していた。

「何が食べたい」とただ闇雲に考える事の難しい実は、テレビなどで目にした影響を受ける事が多い。

その為、このチェーン店だけではなく、ファーストフードやファミリーレストランなどへ行く機会が増えている。

ふと、丁度一週間前もここでハンバーガーを食べていたなと思い出した長谷川は、瞬時に息を呑んだ。

「・・・忘れてた」

先客のいない注文カウンターへ実が進んでいく。

手を繋ぎっぱなしの長谷川は実に歩調を合わせながら続いたが、内心は呑んだ息を吐き出すように大きなため息をついた。

「じゅんくん、みのね、えっとね」

「・・・はい」

「えっと、はっぴ・・・あれ?あれ、まえのとちがう、ね?」

「・・・そ、ですね」

本日の実の目当ては、子供向けのセットだ。

飲み物やポテトのサイズの小さいそれは、けれど年齢を問わず注文をする事が出来る。

そしてそこには、おもちゃが付属した。

実の目的は食事そのものではなく、貰えるおもちゃだ。

一定の周期で入れ替わるそのおもちゃは、今は実の好きなアニメ番組とのコラボレーションとなっていた。

その中に黄色いネズミが喋る置物があり、それが欲しいと言われた時のキラキラとした眼差しが、長谷川の行動を決めてゆく。

そして今日はそれを貰う為に此処に来たのだが、けれど先週来た目的は全くの別だった。

実が、注文カウンターの上にかけられている大型のパネルを指さす。

それこそが、長谷川が息を呑んだ理由だ。

「あー、えっと。違います、ね」

「あれも、いまだけ?ずーっと、ある?」

「えーっと・・・多分、今だけです」

「じゅんくん、みのね」

「・・・はい」

「みのあれ、たべたいな」

先週此処へ訪れた理由は、期間限定のハンバーガーを食べる為だ。

大型のパンとパティは通常の二倍。

更に目玉焼きとベーコンが挟まっており、ビッグサイズが売りだった。

常より見た目に似合わず食事料の多い実は、長谷川でも一つ食べるのがやっとのそれを嬉しそうにしながら間食をしていた。

ポテトと飲み物も残さずに食べきっていたが、あれが実の限界だろう。

しかし今実が指さしているのは、先週と同じシリーズの、けれど違うものだ。

期間限定メニューが先週末で変更になったと、思い出したのはつい先程だ。

「あれ、ですか?でもあれは・・・」

「だめ?」

「だめっていうか、その・・・」

今週から変更となったハンバーガーも、パンとパディが通常の二倍。

その中に、コロッケと厚切りハムが挟まれたボリュームだ。

それだけならば良い。

食事を残す事のない実は、セット全てを食べ切れただろう。

だが、本来の目的のおもちゃつきセットには、そのハンバーガーは選択が出来ない。

そういった場合どうするのが一番なのか、長谷川はいくつも頭を過ぎらせながら明白な正解は導けなかった。

「実さん、おもちゃついてるセットにこのバーガーセットに出来ませんよ」

「んーとね、じゃあね、りょうほう」

「・・・りょうほう」

「みのね、おこづかいあるよ。あのね、ときーとたいへえにね、もらってね、だからみの、じぶんでかう」

「いえ、そういう問題じゃなくてですね・・・」

金銭面の問題では決してない。

たかだかハンバーガーのセットが二つになったところで、遠藤には覚える価値すらない微々たる出費だ。

ニコニコとさも嬉しそうにしながら、実がパネルの写真を指さし続ける。

おもちゃ付きのセットを取り限定バーガーを諦めさせるか、限定バーガーのセットを取りおもちゃ付きのセットを諦めさせるか。

残して捨てるという選択肢は、長谷川の中にあったとしても実の中には存在しない。

普段より、おもちゃ付きのセットは子供向けで量が少ない為に単品のバーガーを追加しているし今回もその予定ではあったが、それにしては限定バーガーは大きい過ぎる。

両方は、無理だ。

しかし実の希望を拒否する言葉を見つけ出せずにいると、パネルを指さしていた手をおろし、実は長谷川のシャツを握った。

「ぽっちゃまも、かわいいね」

「は?」

「ぽっちゃまもね、しゃべるんだって」

「そうですか。でもそんなになんでもは・・・あ、そっか」

ふと顔を上げる。

限定バーガーの写真つきパネルのすぐ隣り。

現在配布中のおもちゃの写真が映されたパネルでは、水色のペンギンのそれが映っていた。

何故気がつかなかったのだろう。

答えは、極々簡単なところに転がっていた。




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