ヤクザものシリーズ・お礼用SS
(ハンバーガー屋にて・後編)



注文を並ぶ客のいないカウンターで、長谷川は息をついた。

そうすると、気持ちがすっと軽くなる。

「じゃぁ、俺がおもちゃつきのセット二個するんで、実さんあの限定のやつのセットしてください」

「じゅんくん、にこ?」

「はい。実さん、別にあれが食べたい訳じゃないんでしょ?おもちゃが欲しいだけなら、良いじゃないですか」

「じゅんくん、おもちゃにこ」

「違います、違います。おもちゃは二個共実さんのです」

「いいの!?」

実の眼差しがさも驚いたように見開かれたかと思うと、すぐさまこれでもかと満面の笑みが零れた。

それと引き替えに、長谷川には苦笑があがる。

実が欲しいのは、おもちゃだ。

おもちゃつきセットそのものではない。

そして「そのもの」が欲しいのは、限定バーガーだ。

ならば限定バーガーを食し、おもちゃが手には入ればそれで良い。

おもちゃ付きセット二つは余るが、それを長谷川が食べれば全てが丸く収まるのだ。

そもそもおもちゃ付きセットは量が少ないので、二十代そこそこの男の体には一つならば到底足りない。

二つ、となったのはいっそ丁度良かった。

「じゅんくん、じゅんくん、いいの?みの、もらって、いいの?」

「良いですよ。っていうか、別に俺いらない・・・いえ、欲しいですけど、実さんが貰ってくれたらもっと、嬉しいかなって」

「わぁ、みのね、うれしいね。じゅんくん、ありがと。じゅんくん、だぁすき」

「・・・いえ、あの、それは言わないで頂けると、嬉しいです・・・」

「へ?」

「いえ・・・」

万が一、実の言葉をどこかの誰かに聞かれていたら。

そして万が一、遠藤の耳に入るとどうなるのか恐ろしくて考えたくもない。

好意より行った行動が第三者により懲罰の対象となる可能性に、背に冷や汗を掻いた。

「ま、とりあえず注文しましょうか」

「はぁい」

ガラスの自動扉が外側から開かれ親子連れの来客を目にすると、長谷川は慌ててカウンターの前に立った。

先に来ていたのはこちらで、順をこされるのはたまらない。

長谷川が注文カウンターに立つ。

するとすぐさま、笑顔を張り付けた女性店員が駆けつけたのだった。


*******

二人掛けテーブルを二つ合わせて四人掛け使用にしたテーブルに、長谷川が二往復をして運んだ長方形の盆が二つ。

その上には、ハンバーガーの包みとサイドメニューのポテトと紙コップのドリンクが大小四つずつ。

それを二つの盆に、大きな物を一つずつと、細々としたもの全て、の二分に分けると細々とした方を長谷川は自身の前まで引き寄せた。

「じゃぁ、食いましょうか」

「はぁい、いただきます」

「頂きます」

結局、おもちゃ付きのセットを三つオーダーした。

一つ一つが小さいセットの為、長谷川は二つでも満足出来る気がしなかったからだ。

幸いおもちゃ付きセットは複数種類用意をされているので、バーガーは三つとも別の種類だ。

Sサイズの紙コップ三つに入っているのは全てコーラ。

Mサイズの紙コップ一つに入っているのはオレンジジュース。

どことなく何かが違う気はする。

後から入ってきた小さな子供連れの親子がチラチラとこちらを伺っているが、実はもとより長谷川も気にしたそぶりを見せず、一番手前のハンバーガーの包みを乱雑に開けた。

「チーズバーガー、久しぶりだなぁ」

「そなの?ちーずばがー、おいしいね」

「そうですね。実さんのそれ、旨そうですね。俺も今度はそれにしようかな」

「おいしそうね。みのね、たべていうね」

「はい、お願いします」

上機嫌の実は、たよりない手つきで限定バーガーの大きな包みを開ける。

盆のうえには、すでにビニールの袋から取り出されたおもちゃが三つ。

内二つは黄色いネズミだ。

ダイニングテーブルとベッドサイドにそれぞれを飾るという。

思い返せば、以前もベッドサイドに何かのおまけの黄色いネズミを置くと言っていたし、一抱えあるサイズのぬいぐるみもベッドに置かれているという。

それが霧島組若頭の寝室かと思うと如何かと思いもするが、実が嬉しそうである、その一点が全てなのかもしれない。

「きょうね、いいひね」

「良い日、ですか」

「はんばーがとね、ぴかちゅとね、じゅんくんとね、いっしょね。みの、ぜーんぶうれしいね」

「・・・実さん。・・・頭に聞かれたらやばいですよ」

しかし長谷川の唇の中での呟きなど、実には届いていないのだろう。

実が小さな口を大きく開けると、通常の二倍サイズ以上の限定バーガーにかじり付く。

薄く片手で十分支えられるサイズのチーズバーガーをほおばる長谷川は、いつになくそれを旨く感じたのだった。




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