三城×幸田・お礼用SS
(結婚時計)


仕事を終えた幸田は、予備校のビルを出た所でちらりと腕に光る時計を見た。

規則的な秒針が流れるように動いている。

その時計は、先日三城にプレゼントされた物だ。

三城が幸田の与える物は全てそうなのだが、その時計も見るからに高級品だった。

渡された包みには、幸田も名前ぐらいは聞いた事のある、自分とは無縁だと思っていたブランド名が刻印されており驚いた。

驚きのあまり、失礼きまわりないと思いながらも調べてしまったその価格を目にした時は、あまりの0の多さに心臓が止まるかと思った程だ。

自分の月給の何倍だろう、と計算をしてしまったのは数学教師としての性だろうか。

そして瞬時に弾き出された正確な数字に、数度目の驚きがやってくる。

受け取れない、と言う幸田はつき返した。

当然と言えば当然だろう。

だが、憮然とした三城に、

「時計なら、毎日付けれるだろ?」

と言われ、頷いてしまったのだ。

その言葉の前に「指輪は無理だが」とあった風に感じたからかもしれない。

結婚指輪と称して渡されたペアリングを、三城は毎日いつでも付けているようだが、幸田はそうは出来なかった。

それは、その先に結婚など待っていないと知っているが故に、そういった目で周囲に見られたくないと思ったからだろう。

「彼女」の話題になると苦しくなる。

そんな存在は居ず、嘘をつき続けるのが辛かった。

適当な返事でその場を誤魔化す事がどうしても出来なかったのだ。

親しい同僚や上司なら尚の事。

時に必要以上に頑固なほどに真面目な幸田の性格を理解しているからこそ、三城は幸田に時計を渡したのだろう。

同じ物を三城も身に付けている事を、幸田は知っている。

幸田はスーツの上からそれを握り締めた。

伝わってくるはずのない振動を感じた気がして、頬が緩む。

「早く、帰ろう。」

幸田は片手を上げタクシーを止めると、三城の自宅住所を告げる。

この瞬間も、同じ時計が三城の腕でも動いているはずだ。

指輪と同じ重さのそれは、未来永劫時を刻み続けるのだろう。

二人の、未来を。



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