極道と舞姫シリーズ・お礼用SS
(プレゼントを)



特別興味があるわけでもないテレビ番組をBGMに、自宅よりも帰宅頻度の増えた黒川の家のリビングルームで夏樹は手帳をめくる。

「やっぱ、作ろうかな・・・・」

一応は二人掛けだという大振りのソファーに腰掛け、背もたれではなく黒川に寄りかかった。

彼の肩から腕に背を預け、ソファーへ足をあげる。

気を抜ききり、取り繕うものなど何もない。

黒川の家も彼という存在も、夏樹にとって最もくつろげる空間だ。

「なんだ?日曜大工でもすんのか?」

「は?え?・・・あぁ、違うよ。衣装の事」

「衣装?あれは、作るもんなのか?」

黒川にしてもテレビに集中をしていたわけではないのだろう。

お笑いタレントを中心としたクイズ番組は、クイズの内容以外の物が重視されているようだ。

夏樹が寄りかかっているのをそのままに、黒川は腕を伸ばすと煙草と灰皿を引き寄せた。

「作るって言っても、俺が作るわけじゃなくて、オーダーメイドって意味だけど。年に何着かは作るよ」

「向こうで用意されるもんじゃないんだな」

「そういう時もあるし、半々だけど」

「そうなんだな。次は持ってないやつの、あれなのか?」

以前は、互いの仕事について触れる事は少なかった。

故意にふれ合わず、プライベートの部分だけを見て、見せるようにしていたからかもしれない。

だが最近は、夏樹側に関しては一概にそうとも言えなくなっている。

夏樹の意志で黒川を公演へ招待したのがきっかけだったのだろう。

リハーサル後の迎えが、駅前ではなくレッスン場の近くとなったのもその変化の一つだ。

「持ってるよ。けど、再来月以降結構同じ作品重なるから、新しいの作っても良いかなって。いつも同じのばっかり着てるのも、なんかね」

「女の出勤前みたいだな・・・」

「俺は男でも、周りにいるのは殆ど女性だから。似たようなもんだよ。それに、衣装にだって流行廃りはあるし」

「そんなもんあんのか。『クラシック』だろ」

「あるよ。古典作品って言っても、振り付けだってちょっとづつ変わって、やっぱり主流も変わるから」

頭上でカチャリと音を立たせ、黒川は煙草を吹かす。

細かく予定の書き込まれている手帳を閉ざし、黒川から身体を起こした。

「実力ももちろんだけど、人当たりとか人となりも重要なんだよね」

センターテーブルの端に置いていた自分の煙草を手にし、離れた場所にある黒川のライターを取り上げる。

ライターや灰皿は借りられても、銘柄もタール数も、メンソールか否かも違う煙草は借りられない。

取り出した一本を唇に加え火をつけると、元のようにソファーへ足をあげ黒川へ寄りかかった。

「女の社会ってのも大変だな。うちとは間逆だ」

「そうなんだろうね。仁が何してるか、よく知らないけど」

「知らなくて良い。それよりあれだ」

もたれ掛かる黒川の腕が揺れる。

見えない背後で、灰を落としたのか彼が身を屈めたのだろう。

「あぁ言うのは、高いのか?」

「あぁ言う?衣装の事?」

「あぁ」

「高い・・・普通の服よりは高いよ。でも、女性用のチュチュなんかに比べたら安いし、仁の着てるスーツよりも安いと思う」

夏樹の持っている数少ないスーツならば衣装の方が高価であるし、黒川のそれというのは実際を知らないので大方の予想だ。

顎をあげるように振り返る。

角度が悪かった以上に煙草を支える手で口元を隠すので、彼の表情は分からなかった。

「そうか。まぁ、あんだけごちゃごちゃついてりゃそうだろな」

「どうかした?」

「買ってやる。これで足りるか?足りなかったら後で請求しろ」

「は?え・・・?え?」

横から、黒川の手が差し出される。

がっちりとした彼の手と、厚みのある紙束。

三秒見つめる。

そしてそれが何であるか理解に達すると、夏樹は煙草を落としそうになりながら身体を起こした。

「は?なんで」

「良いだろ別に。取れ」

「こ、こんなには、いらない。かからない」

「そうか?だったら自分でとっとけ。ほら」

再度、黒川の手が夏樹を急かす。

一目で枚数の分からない紙幣に戸惑いながらも、夏樹はそろそろとそれを取った。

「何かのお祝いだっけ」

「別に何でもない。お前は一々気にし過ぎだ。何もなくったって、何か買ってやりてぇ時もあるだろ。俺はお前の好みなんかよく分からんからな。自分で買ってこい」

贈り物とは、それを相手が選んでくれたというのも一つの価値である気がする。

けれど、そこが紙幣である事も、裸である事も、酷く黒川らしい。

ふと見えたソファーの端には普段そこに置かれていない黒川の財布がある。

紙幣は新札ではない事もあり、財布から直接、もしかすると枚数も数えずに差し出したのかもしれない。

「プレゼント、って事で良い?」

「そう受け取ってくれても構わん。まぁ、金だがな」

「うん・・・でも。うん」

「なんだそれ」

「ううん。ありがとう。良いの作ってくるよ」

「そうしろ。写真くらいは見せてくれ」

「うん」

手の中の紙幣を眺める。

もう片方の手に挟んだままであった煙草を思い出し、一口をふかす。

あまり吸わないまま灰皿に煙草を押しつけると、夏樹はそのまま黒川へ向き直った。

「お礼は、何でも良い?」

「リクエストして良いのか?」

「物による」

「夏樹だ。今から食わせろ。それが良い」

「うん、それなら良いよ――」

夏樹も、同じ事を考えていたから。

指先で整えた紙幣を、身体を反らすよう振り返り、愛吸の煙草の横へ置く。

そこから指が離れる時には、もう黒川しか目に入っていない。

片手を彼の首に回すと、膝へ跨がった夏樹はその唇を奪っていった。



+目次+