ヤクザものシリーズ・お礼用SS
(ある日の村崎郁の日常)



村崎郁は、フォークを口に運び眉間に眉を寄せた。

「なんや、思てたのとちゃうね。もっとこう、美味しいんや思てたけど、案外普通やわ」

大阪市内のシティーホテル。

上層会の一室でコーヒーテーブルに向かう村崎の手元には、コーヒーミルクを入れただけのホットコーヒーと、ホテルオリジナルのケーキ皿。

そしてその上に乗るのはこのホテルのそれではなく、心斎橋に店を構えるスイーツショップのケーキだ。

本店はパリに構え、関西どころか日本初出店。

情報番組や情報誌で連日話題を浚っており、開店程なくから各界の有名人が絶賛しその名を広めていた。

そのケーキが話題なのは、味の旨さに加え見た目も要因するのだろう。

柔らかいクリームと色鮮やかなフルーツ。

丸みを帯びたフォルムのデコレーションが、まるでおとぎ話から出てきたようで、その為このスーツショップのファンの多くが妙齢の女性だ。

「それで、どやった?」

ケーキを半分も食べないうちに飽きると、フォークを指先で弄び村崎は足を組み替える。

革靴を履いた足を大きな素振りでそうすると、足下で喉を詰まらせる音が聞こえた。

「ヒッ・・・」

「なんやの、煩いね」

「もう、しわけ・・・ありません」

足を組み替える為に振り上げた村崎のつま先が、何かに当たる。

興味もなかったがチラリとだけ視線をやると、机の下では半裸の男が正座をしていた。

身につけているのは、薄ピンク色のパンティーとブラジャー、赤い麻紐。

麻紐は中年太りの始まった肉体に食い込み、両腕を胸と腹に、正座をした膝と太股をふくろはぎに固定するように巻かれている。

もっとも、この男がこのような装いで正座をしているのは、村崎の命令故だ。

「そういや、今日のお使いのご褒美やね」

「郁さん・・・」

「せやけど、これ別に、対して美味しなかったしなぁ」

「せ、せやけど、お言いつけ通り・・・」

「せやねぇ」

全裸に女性物の下着だけを付け麻紐で縛られたこの男は、何人、否、何匹目ともつかない村崎の狗だ。

飼い始めて一年以上にはなる、決して新しい狗ではない。

本社は和歌山ながら、日本シェアの実に80%を誇る業務用車用洗剤の開発販売を行う会社の社長だ。

若い頃に起業し、一代で大企業まで上り詰めた敏腕。

年齢は五十代半ばで、黒々とした髪は後ろに撫でつけられ如何にも代表取締役だという威厳を見せている。

だがその首には、深緑の首輪が巻き付けられていた。

「どやった?今日のお使い、楽しかった?」

「それは、その・・・」

「楽しかったんちゃうん?今かてほら、こんなもんこんだけおっ立ててるやないの」

「はっ・・・・」

カランと、音を立てフォークを皿の上に放る。

そうして足先だけを男へ向けた村崎は、躊躇い無く革靴の靴底で男の盛り上がる股間を踏みつけた。

今日のお使いコースは、レディースランジェリーショップで下着を買い、近くの百貨店のトイレでスーツの下に着用する。

それを付けた上で件のスイーツショップで女性ばかりの列に並び、ケーキを一つだけ購入する。

それを全て一人で行い、村崎の元に戻る。

そして現在に至るのだが、男が言いつけを守ったのかは所詮口先での報告だけだ。

ケーキを部下に買いに行かせる事も、複数購入する事も、下着を事前に入手しておく事も、事前に着用をしておく事も、容易に行える。

けれどこの男は、村崎に忠実な狗であればある程、下手な小細工などしないのだろう。

「ここ、こんなんなってるんは、なんでやろな?パンティー買うんが恥ずかしかったんか?そないなもんつけてるって、ばれるんが恥ずかしかったんか?ばれるかなぁ、おもたら興奮したんか?それとも、それが良かったんか?」

「はっ・・・あっ・・・」

男の股間から足を卸した村崎は、太股を踏みつけた。

下着の中の、更に奥。

百貨店のトイレで行わせたのは下着の着用だけではなく、自身のペニスよりも立派なサイズの張り型を体内へ差し込む事だ。

今もまだ、正座をする男の内部に太い張り型が突き刺さる。

それこそが、下着の中心を盛り上げる一番の要因だろう。

村崎がふと笑みを浮かべる。

そうして立ち上がると、コーヒーテーブルからケーキ皿を指先で持ち上げた。

「ご褒美、欲しいんやろ?」

「はっ・・・はい。はい・・・郁さん」

「せやったら、まずこれ食べてからや。僕の残りもんやで、嬉しいやろ」

「はい・・・はい、それはもう・・・ぇ」

「ほら、食べ」

村崎が、皿を持った手を傾ける。

クリームが皿に張り付いていたケーキは、けれどその角度がきつくなると、簡単に皿から絨毯敷きの床へと落ちた。

「郁・・・さん」

「食べな、ご褒美もなしやで。そない美味しないもんこうて来たんやから、残飯処理するんは狗の役目に決まってるやろ」

「あ、あの・・・縄を・・・」

「そのまんまでも食べれるやろ。出来ひんねやったら、えぇで。僕帰るから」

「でっ出来ます。食べます」

「そぉか」

村崎が一歩足を引くと男は慌てて叫び、ひきつった面もちはさも焦燥に歪んでいた。

正座をした体勢から、床に落ちるケーキへ顔を埋めるよう身体を折り曲げる。

そうすると、身体を縛る麻紐も、体内に突き刺さる張り型も、より男を襲うのだろう。

「うっ・・・・あ・・・」

「はよしいや」

「はっ・・・ぁ・・・はい」

男が苦しげな呻き声をあげながら、崩れるケーキへ舌を延ばす。

その様子を眺めながら、村崎は僅かに唇をつり上げたのだった。




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