ヤクザものシリーズ・お礼用SS
(えいがにいきたい)



夕方。

実が一週間で一番楽しみにしているアニメ番組を見終わった後の事だった。

エンディングとなり、実はエンディングロールまでしっかりと眺めている。

記憶力だけはずば抜けて良い実は、声優だけではなく制作スタッフまですべて覚えているようだ。

隣でアニメを見ていた長谷川は、けれどエンディングロールになど興味がないと立ち上がった。

アニメ放送中は控えるべきだとおいていた食器洗浄機のスイッチを入れる為で、汚れた食器は既にそこに並べている。

後は洗剤を入れスイッチを押すだけだ。

「はぁー。じゃぁなんか飲むかな。実さんにはジュースを・・・」

遠藤が帰宅する時間にはまだ余裕がある。

気の抜けきった様子で、長谷川は我が物顔でキッチンに立った。

だがそうしていた時だ。

エンディングロールが終わり、次回予告も終わり、CMに入った頃、実は長谷川を振り返り画面を指さした。

「ねぇーじゅうんくん、みのねー、あれいきたい」

「は?え?何ですか?」

キッチンから顔を覗かせる。

慌てて実を眺めたが、その指さす先の画面では有名メーカーの菓子のCMが流れていた。

菓子ならば、「いきたい」ではなく「たべたい」だ。

冷蔵庫に常備をされているオレンジジュースをコップに二杯入れ、長谷川は両手にそれを持つと実の元へと戻った。

「あれって、なんですか?」

「あれね、あれ。げのせくと」

「は?」

「みゅーつーとね、たたかうの。ばーんって」

「・・・あぁ、映画のやつですか?」

「そ。えーが。みの、えーが、みたいね」

長谷川からジュースの入ったコップを受け取り、実は上げていた手をおろす。

ニコニコとしながら、柔らかい髪を揺らした。

きっと実が映画を見たいと思ったのは、エンディングロールの後に流れている映画のCMを見ている時だったのだろう。

だが実の胸にその感情が広まり、長谷川に伝える頃になると、CMは一般企業のそれへと移り変わり二つほどが流れ終わった後だったようだ。

実の隣に座り、無遠慮にソファーに背を預ける。

何も言わない実を良い事に、長谷川は自分用のグラスを傾けた。

「あれ、公開夏ですよ」

「なつーね。なつ。たのしみね」

「んーそんだけ先だったら予定も立てられるし、行くのは頭・・・って事になりますよね」

「ゆたー?ゆた、つれてってくれる、かな?」

「どうでしょう・・・実さんが行かれるのに反対はしないでしょうけど、ポケモン、ですもんね・・・」

ジュースは旨い。

だが眉間には皺が寄る。

関東最大勢力である宮川組において、今もっとも勢いのある組織のナンバー2が、子供向けアニメ映画に行く。

ふと脳裏に過ぎった遠藤は、黄色いネズミのイラストの描かれたパンフレットを抱えていた。

それはどうにも、恐ろしい印象しかない。

「じゃぁ、じゅんくん?」

「どー・・・でしょうかね。映画だし、頭が行かれるとは思うんですが」

実の護衛兼世話係を始めた当初は、揃って食事をするのも、喫茶店に入るのも嫌がっていた遠藤だ。

曰く、「デート」らしいものを長谷川が実と行うというのが許し難いという。

現在は随分とましではあるが、それでも全てを許されているわけではない。

映画鑑賞は、立派に「デート」らしいものだろう。

ならば、時間の都合がつく限り、遠藤は自身で実に付き添いたがるよう思えた。

「ゆた、きてくれるの?」

「まぁ、実さんが頼めばきっと。映画って、一ヶ月か二ヶ月はやってるだろうし・・・」

「わぁ。うれしいね、うれしいね。みのね、ゆたとぴかちゅ、みたいね」

実の眼差しが、キラリと変わった。

さも嬉しげに、喜びしかないように、そのような顔を向けられて、遠藤が拒否出来ないだろうと想像は容易く出来る。

長谷川にしても性的欲望とは無縁のところで、この面もちには叶いそうにない。

「じゃぁ、実さんがお願いしないとですね。きっと、実さんからお誘いになったら、頭喜ばれますよ」

「みのから?」

「そうです。映画行きましょうって、デートですよ」

「わぁ。でーと、でーとね」

「実さんは頭と行くのが良いんですね」

「うん、みのね、ゆたといけたらもっと、うれしいね」

実の笑顔が眩しい。

この顔を見てしまうのだから、遠藤に怒号を向けられても仕方がないのかもしれないと少しだけ思った。

実にデートを誘われた遠藤はきっと、喜びながら時間を調整し、大方銀行が休みであり実のスクールも休みである土日祝のいづれかに、大勢の親子連れに混じり映画館へ行くのだ。

無責任にはやし立てながら、長谷川はポップコーンも抱える遠藤を想像したのだった。




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