三城×幸田・お礼用SS
(恭一の梅酒・前編)



ある土曜日。

一応は週末の土曜日と日曜日は休日となっているものの、決してその通りにばかり行かない。

二足の草鞋を履いている事もあり、定められた勤務時間内に仕事が終わらない事もよくある。

それだけでなく、休日ならでわの接待やパーティーなども予定を埋め、両日休める日など月一回あるかどうかというのが現状だ。

この日も三城は、来週の出張に向けての調整の為休日出勤を余儀なくされていた。

「・・・ただいま」

朝は普段よりも遅く行き、帰りも早い。

もっとも、普段の帰宅が定時よりも何時間も後なので、普段よりも早い今こそが定時近くだ。

自宅マンションの玄関を上がり、仕切り扉にはめ込まれた磨り硝子から漏れる明かりに安堵を得る。

この土日、恭一は休みだ。

今日夕食に出かけるかという案が出たもののそれは実現せず、外食及びデートは明日という事になっていた。

その為今晩の夕食は恭一の手作りで、三城にとってはそちらの方が余程ご馳走だ。

丁寧に革靴を脱ぎ、ビジネスバッグを手にしたまま短い廊下をゆく。

仕切り扉のドアノブを握り込む頃には、料理の暖かく良い香りがした。

「恭一、ただいま」

「あ、春海さんおかえりなさい。ごめん、気づかなかった」

「構わない。料理でもしてたのか?」

メインルームに入り見もしないまま足下にビジネスバッグを置くと、三城は恭一だけを見つめそちらへ足を向けた。

最近ではもっぱら、料理は恭一が作っている。

朝食からはじまり、昼食の弁当も、夕食も。

互いに働いている同性なのだから恭一だけに負担を掛けるべきではないと思う反面、まさに新妻だという雰囲気がたまらなくもある。

生活費やデートので飲食代を負担している、つまりは金で解決をしているのを免罪符に、三城は恭一の料理のある生活を満喫していた。

今晩のように、面倒な休日出勤であれば尚の事だ。

「うん。って言っても、さっき仕上げをしてただけなんだけど」

「そうか。旨そうだ」

やはり外食にせず良かった。

鍋の掛かるIHヒーターを停止させていた恭一を後ろから抱きしめると、自然に流した髪を揺らした彼がさも嬉しげに振り返った。

「うん、凄く美味しいよ。春海さんも久しぶりだよね」

「・・・ん?あぁ」

言葉の、ニュアンスがどこかおかしい。

けれどそれが何処であるのか考えたどり着く前に、恭一は振り返った仕草のまま、胸を抱く三城の腕に触れた。

「さすがお義母さんだね、これだけ煮ても煮くずれしてないなんて」

「・・・は?」

「でも中までちゃんと味が染み込んでて美味しかったんだ。春海さんもご実家に居た頃は好きだったんでしょ?」

ふとシンクを見ると、見覚えのない大振りのタッパー。

脳天気なまでに嬉しげにする恭一に、点と点は容易く結ばれた。

「うちに、行ったのか・・・」

「うん、お昼前に連絡があって・・・あ、ごめん春海さんに言ってなかったよね。お仕事中だと思って・・・」

「そんな事は良い」

「勝手に行って・・・手土産は持って行ったんだけど・・・」

「そんな事もどうでも良い。あっちから連絡があったんだろ?手ぶらでも十分なくらいだ。そうではなくて・・・」

問題は、恭一ではなく、実母・沙耶子だ。

隙あらば恭一を構おうとする彼女は、三城にとって目障りな存在でしかない。

恭一を抱きしめたまま、眉間に皺を寄せる。

しかしいくらそのようにしてみても終わった事は仕方がなく、ただ三城に比例するよう恭一の眉が下がるばかりだ。

ため息を一つ吐き、それを最後に三城は諦めた。

「別に、恭一に何か言いたいわけじゃない。むしろ、迷惑なら断れば良いんだ。嘘でも用事があると言え。そういうのは『方便』と言うからな」

「え?僕は全然迷惑なんかじゃないよ?むしろいつもご迷惑かけてるのは僕の方で・・・」

「自分から呼び出しておいて迷惑もあるか。何で呼び出されたんだ?どうせまたつまらない用だったんだろ。それともただそれを押し付ける為だったのか?くだらんな」

沙耶子が恭一を呼び出す理由として、必要性の高い物は少ない。

何を貰っただ、新しいレシピがあるや、大抵はそのような部類だ。

さも辟易として言い捨てる三城に、恭一はその腕を軽く叩いた。

「全然、つまらなくなんてないよ。春海さん、こっち、こっち」

「は?」

「ちょっと来て」

抱きしめた腕を離すよう催促され、仕方がないと腕を解く。

その途端反対に恭一に腕を捕まれ、三城は引かれるようキッチンを出た。






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