三城×幸田・お礼用SS
(出張から帰宅した三城と夜は)



入社間もなくから出張、特に海外へのそれは少なくはなかった。

アメリカ資本のC&G社は英語を話せるのは必須。

特に花形とされる海外営業部は三ヶ国語以上取得が絶対条件だが、その中でも三城の語学力は常にトップだった事も要因の一つにあるのだろう。

そのうえ、ただ話せるだけではなくビジネスにおいても優秀だと評価されれば殊更。

その為、日本支社のナンバー2になった事で海外への出張が飛躍的に増えたのは何も不思議はない。

それ事態に不満はない。

半日以上を機上で過ごすにも慣れ、時間の過ごし方や休息の取り方も上手くこなせている。

今時大抵のインターネットさえ通じれば、情報は世界中どこに居ても得られるし受け取れる。

食事面や生活面も不自由はなく、仕事をする上で不便や不満は然程ない。

だがどうしたところで、得られない物も確実にあった。

「さすがに半月は、堪えるものだな」

愛用の大型キャリーバックを押し、三城は自宅マンションのエレベーターホールを玄関へと向かった。

日本支社副支社長として北原だけを連れ本社に出向していたが、目的であった案件は問題なく纏まっている。

その為に出向いたのだ、当然と言えば当然だ。

予定外に事案を追加されたり、日本に残るクラインから副支社長として部長として、ここぞとばかりに仕事を回されたが、大きなトラブルはなく最短で戻れただろう。

言い換えれば、本社の期待も直属の上司の望みも叶え、何より自分自身の評価を確立させ、最短で戻り二週間だ。

その短期間という功績にも、周囲の評価というものは確実に上がる。

だが今となっては、それもどうでも良い事だ。

「ただいま」

二週間ぶりの玄関を潜る。

休日に帰国をすれば恭一は空港まで出迎えてくれる日もあるが、平日ともなるとそうも言っていられない。

しかし、出迎えよりも貴重な物を得る為に、無理を押して日本時間の金曜日中に戻ったのだ。

つまるところ、明日・明後日は三城は、そして恭一も休みという事だ。

「あ、春海さんお帰りなさい。お疲れさま」

「風呂上がりか?寝るつもりだったのか?」

「ううん。お風呂は入ったけど、春海さん待ってて、寝るつもりなんてなかったよ」

三城が靴を脱いでいると、メインルームから続く仕切り扉から、パジャマ姿の恭一が顔を出した。

黒い髪がやや湿り気を帯び、頬や首も耳も朱色に染まっている。

シャツタイプのパジャマは開襟タイプだが、そのうえボタンも更に一つ外されている。

そのどれも、二週間ぶりとなるとまるで毒だ。

日々の生活で培った免疫は、容易く途切れるものなのかもしれない。

もう気を張る必要もない自宅で、どうしようもなく頬が緩む。

メインルームへと向かいながら、目を細める事で下がりすぎる目尻を誤魔化した。

「ねぇ、春海さん。やっぱり、疲れてるよね?」

「そりゃな。十七時間かそこら飛行機に乗ってたら、慣れていても元気はつらつとはいかない」

「だよね。明日も明後日もお休みで良かったね」

「そうだな」

「だからやっぱり、すぐ寝たいよね。お風呂入って、寝ちゃいたいよね?」

三城の後ろをついて歩く恭一が、明るい声を疑問系に投げかける。

一つ一つ返して見たものの、どうにも会話のラリーとしては不自然さが残った。

ジャケットを脱ぎ、恭一へ渡す。

慣れた手つきで恭一はそれを受け取ったが、三城はジャケットを握る手を離さなかった。

「何が言いたい?」

「えっと」

「俺に起きててほしいのか?寝てほしいのか?」

恭一を眺めそこから手を離す。

しかし三城のジャケットを両腕にかかえた恭一は、それをハンガーに掛けに行く事はなかった。

代わりに腕に掛け俯くと、ネクタイを外し掛けていた三城のシャツを引いた。

「春海さんにね、無理はして欲しくないんだ」

「それで?」

「でもね、えっとなんていうか。二週間ぶりだから」

「だから?」

「無理はして欲しくはないんだけど、その・・・春海さんが、欲しいなぁ、なんて」

見えるのは、恭一の頭と、耳が少しだけ。

だがそれでも、恭一の気持ちを伝え、そして三城の自制心を揺るがすには十分だ。

解いたネクタイをその場に落とす。

自由になった手で三城は、恭一の頬に手をかけると顔を上げさせ、有無を問う間もなくその唇を唇で奪った。

「えっ・・・ふっ・・・ン」

「・・・恭一」

シャツを握っていた恭一の手が、三城の背に回される。

その感触に喜びながら、三城もまた彼の腰をしっかりとした手つきで抱き寄せた。

二週間ぶりの唇。

暖かさも舌の感触も、一度知ってしまうと休まらず何度も繰り返しそれを欲してしまう。

グチュリと、どちらの唾液とも分からない水音が立つ。

抱き支える恭一の腰が、力を手放しつつあるように重くなる。

そうしてようやく三城は唇を離した。

「俺が、何の為に今日帰って来たと思ってる」

「え?」

「煽ったのも、誘ったのも恭一だからな。そう易々と寝れると思うなよ」

「・・・うん。分かってる。大丈夫、僕もすぐには、収まりそうにないんだ。だってもう二週間も春海さんが・・・ぁ」

「とりあえず、ベッドだ」

二週間、日本を離れていようが仕事漬けだろうが構わない。

けれど、ただただ恭一だけは、二週間も得られないとなるとどうにも耐えられないようだ。

禁断症状は酷く、精神力で押さえ込みギリギリのところで耐えていた。

恭一の腕を取り、足早に寝室へと向かう。

三城のジャケットを抱えたままの恭一をふと振り返ると、頬は紅潮し、そして下腹部は既に歪な変形を見せていた。





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