三城×幸田・お礼用SS
(夜中の弁当・後編)



身体が、気持ちが、やけに軽い。

「人が居たら、話し合い中だったりしたらどうしようかと思ったんだ。春海さん一人で良かった」

「残業をしていた訳ではないからな。海外の支社との電話待ちで残ってるだけで・・・それよりどうした?」

「うん、ちょっと」

はにかんだように曖昧に笑い、恭一は手にしていた紙袋を遠慮がちにデスクの隅に置いた。

たまたまリビングルームの片隅で目についた、以前三城が菓子を貰ってきた際の紙袋。

メーカーのロゴが大きく描かれたそれと、中身は異なるものだ。

「えっと、晩ご飯もう食べた?」

「まだだ。なんだ、ディナーの誘いか?それならそうと連絡をくれれば・・・」

「ううん、違うよ。誘いに来たんじゃなくて」

口ごもるように告げながら、頬が赤らんでいくのが分かる。

何故今更ながらだと思いもするが、制御は出来ない。

怪訝そうな三城から視線を逸らし、恭一は誤魔化すよう笑った。

「ちょっとその、差し入れのお届け、とか」

「差し入れ?」

「今日ちょっと早く帰ったし、明日休みだな、とか思ってさ。もし晩ご飯済ませてたらどうしようとか思ったんだけど、残業の時春海さん、食べるの遅いみたいな事前言ってた気がしたからふと思いついて。えっと、これ」

おもむろに紙袋の中へ手を入れる。

そこには、色違いの弁当袋が二つ。

以前二人が使っていた弁当箱だ。

別段壊れたり不便があったわけではないが、三城が新しい物を買ってきたので今はそちらを使っている。

今日も互いに弁当を持って出勤をしているので、余りの弁当箱があったのは幸いだ。

深い青色の袋と、同じく深い緑色の袋。

青い方を三城の前へと置いた。

「弁当、か?」

「うん。いつも通りの大した物じゃないんだけどね。・・・あ、ごめん、迷惑だったりした?」

じっと、差し出した弁当袋を眺める三城に恭一は眉を下げる。

これまた今更と言えば今更だ。

しかし、時間にして僅か数秒。

恭一が次に何を言うよりも先に、三城は弁当袋を自身の前まで引き寄せた。

「そんな事、あるわけないだろ。むしろただ、唐突だったから驚いているだけだ」

「それだけ?なら良かった」

「あぁ。こんな事、初めてだろ?」

「うん。此処に来るのも二度目なくらいだから」

「そうか。思いつきだと言うが、言い思いつきだ」

三城の口元が、笑みの形にひっそりと歪む。

それがどうしようもなく、恭一に満足感を与えていく。

「そっちのは恭一の分か?」

「うん。食べたらすぐ帰るから一緒させてくれる?」

「慌てて帰る必要もない。折角来たんだ、ゆっくりしていけ」

「でも、春海さんお仕事・・・」

「海外支社との電話会議の時間を待っているだけだ。今日の仕事は時間内に終わらせている、問題はない」

「あ、そうなんだ」

ふと笑みを浮かべ、三城がプレジデントチェアから立ち上がる。

視線で三城を追っていると、彼は青い袋に包まれた弁当箱を片手に、そしてもう片手に緑色の弁当箱を持ちデスクを回った。

「それにしても、まさか恭一が来るとはな」

「驚かそうと思って。でも会議中とか取引中とか、仕事してたらどうしようって会社についてから考えたよ。勢いばっかりで後先考えてなかったなんて、恥ずかしいね」

三城がデスク向かいの応接セットに腰掛ける。

長椅子の端に座った彼は、青色の弁当袋を自身の前に、緑色のそれを隣り合うように置いた。

恭一の席は、そこのようだ。

「学校から帰ってから作ったのか?」

「うん。いつもの弁当と大差ないんだけどね。あ、晩ご飯にしたら物足りないかも・・・」

「それならそれでどうにでもする。それより、コレが重要だ」

「これって?・・・弁当?」

「他にないだろう。あぁ、あるとするなら、『恭一の作った』という付加価値だな」

「・・・ぁ」

三城の声音が、静かに、けれど確実に嬉しげに弾んだ。

瞳は彼の手元に釘付けられる。

見えるのは巾着タイプの弁当袋を解くその指先だけだけれど、視界に入らないその面もちも想像がついた。

「そう言ってくれたら、作って持って来た甲斐が凄くあるよ。嬉しい」

「嬉しいのは、俺の方だろ」

「同じくらい、だね」

ソファーに腰掛け、三城に倣うよう恭一も手早く弁当袋を解く。

見たい顔があった。

聞きたい言葉があった。

それは今確実に、得られている。

「旨そうだ」

「良かった」

箸箱から取り出した箸を握り顔を上げる。

その視線先では、フライパンを降りながら思い浮かべていた愛しい存在の表情があったのだった。







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