ヤクザものシリーズ・お礼用SS
(寝てやる!)



亮太が帰宅をしたのは、日が変わる五分程度前だった。

当直ではなかったものの、担当患者の容態の変化や急患が耐えなかった。

明日は朝から外来診察。

出勤時間まで七時間程度しかなく、一刻も早く寝てしまいたい。

風呂も入らず、朝シャワーで済ませるつもりだ。

そう、送迎車の中では考えていた。

しかし、時刻が時刻である。

同居人で恋人・中里が黙っているとは少しも期待できず、そのありがたくない想像は現実となっていた。

「よくも平然と午前様出来るもんだな」

「まだ日は変わってません!五分前で、まだ午後です!」

「ンだと?三分前だ!こんなもん、日が変わったのと一緒じゃねぇか!」

「違うに決まってるでしょ?それに、もし午前様してたって、なんだって言うんですか!俺は何も、遊んでたわけじゃない。仕事で遅くなって、明日も仕事で朝が早いだけです。退いてください、俺は寝たいんです」

「亮太!病院辞めろ!」

「しつこい!絶っ対、辞めません!」

この一年で多分、三日に二回は繰り返している定番のやりとりだ。

中里の舎弟一人居ない二人きりの自宅で怒鳴り合う。

ここが壁の厚い、何よりワンフロアにこの家と舎弟の待機ルーム、一階下は空きフロアという部屋だからこそ問題はないが、以前亮太が住んでいたようなぼろアパートでは外まで怒鳴り声がダダ漏れだっただろう大声だ。

余計に疲れてしまう。

小声で、そして適当に謝罪を口にしてこの場を納める方が良いのかもしれないが、あまりに頭ごなしの中里の言い分に口先だけでも従うなど腹立たしい。

「とにかく、俺は寝ます」

「人の話し聞けや、亮太ぁ」

「おやすみなさい、学さん。学さんも寝たらどうですか?俺と一緒の時間は過ごせますよ」

毎度毎度のやりとり。

あいさつのようなやりとり。

けれど今日はどうにも、互いに虫の居所が悪かったのかもしれない。

亮太が、そして中里も、言葉がきつくなる。

寝室へ向かう両手の腕を、中里が圧倒的な力で掴んだ。

「そんなに寝たけりゃ、ベッド連れてってやる」

「な・・・せ、セックスはしませんよ!」

「うるせぇ」

「しません、絶対しません!明日、朝早いんですから!」

絶対にミスの許されない仕事だ。

故に、身体だけではなく頭も起ききっていなければ仕事にならない。

賢明に中里から逃れようとする。

しかし、一度彼がこうなってしまえば、逃げられないのは経験上よくよく知っている。

あっという間に寝室へ連れ込まれ、どうにも出来ないうちにジャケットからネクタイ・シャツを脱がされていく。

どの道スーツは脱ぐのだから、抵抗するより任せておけば楽かもしれない、などとも一瞬脳裏を掠めた。

結局は脱がす中里を手伝うように手や足を動かし、パンツ一枚の姿になった。

「脱がせてくれてありがとうございます。パジャマに着替えるんで」

「必要ねぇ」

「このまま寝れません」

「そりゃそうだ。これから一発やるんだからな」

「そういう意味じゃないです・・・あっ」

中里の脇を通りパジャマを取りに行こうとした。

しかし、当然と言えば当然であるように、湯沢はあっさりと腕を捕まれ、そしてベッドへと放られた。

あのまま見逃してくれるような人間であれば、そもそも帰宅して開口一番、「おかえり」もなしに怒鳴りつけたりはしないだろう。

「嫌です。セックスしません!」

「うるせぇ。俺はやるつってんだよ。遅く帰ってくるお前が悪いんだろ。嫌だったら、これからはもっと早く帰って来るんだな。それか病院辞めろ」

「だからそれは・・・」

らちが明かない。

毎度毎度の堂々巡り。

煌々と明かりの灯る室内でシーツに背を預け、二十センチ近く長身の中里に彼の腕の長さ分距離を開け覆い被さられた。

ふと、肩の力が抜ける。

頭上の彼を見上げると、亮太の中で何かがプツンと途切れた。

「分かりました」

「最初っからそうしとけ」

「そうですね」

敢えて視線を逸らさず、彼を見つめる。

そして亮太は、ふと口元を緩めた。

「俺は寝るんで、やりたかったら勝手にしてください」

「・・・はぁ?」

「ただストレス発散で射精したいだけなんでしょ。ダッチワイフの代わりと思ってくださって結構です。おやすみなさい」

ニコリと、一瞬だけ笑みを浮かべた。

けれどたったそれだけで、亮太はもう中里を見る事もなく瞼を閉ざした。

これ以上、聞く耳をもつつもりもない。

「ンだと、亮太てめぇ。俺を何だと思ってんだ、おい!マジで犯すぞ」

「・・・」

「明日腰立たねぇでも知らねぇからな。顔にザーメンぶっかけんぞ」

「・・・」

「まだ寝てねぇんだろ。クソ、舐めやがって。俺にンな態度取る野郎なんざお前だけだぞ」

頭上では、中里が一人喚いている。

寝たもの勝ちだ。

同レベルの言い争いをするよりも、賢い方法だったのかもしれない。

何故今まで気づけなかったのだろう、そう思いながら、ほぼ全裸の身体だけは寒いなと思い始めた時、その最後の砦に強い違和感があった。

「だったら、望み通り犯ってやろうじゃねぇか。いつまで寝てられっかなぁ?」

「ンッ・・・」

「特別に、存分にしゃぶってやる」

唯一着用していた衣類、パンツがあっさりと脱がされる。

そうしてそれが足先から取り払われたと同時に、身体の中心、ペニスに生暖かい感触を得た。

「寝るってんなら寝ろよ」

「く・・・ま、学・・・さん」

「お前が、言った事だろ。なんだ、勃つじゃねぇか・・・」

中里の口内に、亮太のペニスが包み込まれる。

吸い、舐め、出し入れをされ。

まだ眠りに落ちる前にそうされれば、感情など置いていきぼりでも身体は反応するものだ。

そのうえそれが、心から不快に感じているわけではない、恋人相手であるなら尚の事。

「やめ・・・まな・・・」

「寝るんだろ。寝ろよ」

「止め・・・あっ」

言い出したのは自分。

種を蒔いたのも自分。

ならば、責任を取るのも自分以外の何者でもない。

中里の舌が、勃起しきったペニスの亀頭を舐めあげた。

もう、逃れられはしない。

せめてもの反抗心から両腕で顔を覆った。

けれどもう、言葉も出なければ彼を押し返す事も出来ない。

抗えきれない物に流されるように、亮太は自ら膝を開いたのだった。



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