三城×幸田・お礼用SS
(三城法律事務所の一室)



都内のある高層オフィスビル。

そのワンフロアに「三城法律事務所」は存在した。

企業の顧問弁護がメインの事務所で、それらを専門とする事務所の中では右に出る所はないと言われる規模と知名度を誇っている。

広いオフィスに十数部屋ある応接個室。

昼の太陽が差し込むその一室に三城秋人【みき・あきと】は居た。

「助かりました、兄さん。」

テーブルの上に広げた書類を纏めながら秋人はホッとしたように言った。

今日の彼は明るい色のスーツと、それに合わせたシャツ・ネクタイを締めており、勤め人には見えがたい。

「単純な事だ。」

微笑む秋人に対し、対面する実兄・冬樹【ふゆき】は実にそっけなかった。

こちらはダークグレーの質と品の良いスーツを着用しており、「エリート」というオーラを振りまいているかのようだ。

「兄さんにはそうかもしれませんが、素人の僕からすれば意味の解らない問題だったんですよ。」

秋人は自身が経営する会社の顧問弁護の契約を三城法律事務所と結んでおり、担当は実兄冬樹だった。

そして本日は、新たにオープンするカフェの法律的な問題を尋ねに来ていたのだ。

用件は終わり、書類を纏めたファイルを鞄に直すと、初めに出されすっかり冷めてしまったコーヒーを口にする。

もう砂糖が溶ける事は叶わないだろうそれをブラックのまま喉に流し込んだ。

同じくコーヒーカップを手にした冬樹は、秋人から視線を外しぼそりと呟いた。

「・・・あれから春海とは連絡を取っているか?」

あれから、とは正月からだろう。

いつも堂々としている冬樹らしくもなく、視線は泳いでいる。

「いえ、殺人事件以降は特には。」

「そうか。」

仕事の関係もあり冬樹と秋人が連絡を取る事は頻繁にあったが、この話が持ち出されるのは初めてだ。

沈黙がこの狭い個室を襲ったが、先に口を開いたのは冬樹で、言いにくい事だと主張するように重い口調だった。

「春海の・・・・その、パートナー・・・」

「恭一くんですか?」

「そう。彼は、その・・・酒は飲めるのだろうか?」

秋人はクスリと笑った。

それに気づいたらしい冬樹は不機嫌そうに口角を下げたが、それが本心でない事を秋人は知っていた。

なんて事はない、ただの照れ隠しだ。

「今度、春海に聞いておきます。その時はとっておきの酒を用意しますよ。」

プライドの高さは春海と同等だと思っていた兄が、自ら歩み寄ろうとしている。

理解出来ない事も、「ダメだ」と切り捨てず、認める努力をしようしている。

そんな人じゃ無かったはずだ、と嬉しい変化に秋人は目を細めて微笑んだ。

家族だから。

心配しているからこそ怒り、いずれは理解を示すのだろう。

───春はそこまで来ているのかもしれない。



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