ヤクザものシリーズ・お礼用SS
(友奈のお家でお泊まり会・1章4)



雪はきょとんと首を傾げた。

「友奈さんのお母さんとお父さんが居ます」

何故赤星が笑んでいるのか、何故そのような事を聞くのか。

やはり事の重大性の見極めというのは苦手なようだ。

瞬きを二度するだけの間を空けて告げた雪に、赤星は直ぐに言葉を繋げた。

「そうなんだ。それだけ?」

「野田さんと、皆元さんもいます」

「男三人が、女の子のご実家にお泊まりするの?」

「そです。えっと、えっと・・・あ。てつやでしりーずです」

またも雪の食事の手は止まる。

そこへ意識を向ける事も出来ず、ただ上下に頭を振るよう頷いた。

「は?てつやで?」

「はいあの、徹夜で、海外ドラマのシリーズを、一気に、見ます。二十四時間で、途切れたら駄目だから、徹夜です」

今日、帰る前に何度も聞かされた事を思い出しながら、途切れ途切れになりつつも言い漏れがないよう口にする。

言い出したのは友奈で、一番乗り気だのも友奈。

その友奈の誘いに、訳も分からないまま雪が頷いてしまったところから事は発端しており、雪一人を行かせる訳にはいかないからと野田と皆元も乗ったようなものだ。

雪自身、そのドラマに興味があるかと問われれば、そもそも内容を一切知らないので判断すら出来ない。

一つ確かめたのは、以前、それも友奈達と内容も知らない映画に行った時は和製ホラー映画で、その後随分と長い間雪は赤星を待つ一人の部屋で肩を震わせていたが、今回はホラーでないか、という事だ。

和製どころかどこの国の物でもきっと、ホラーは身体に合わないらしい事をあの時知った。

そういう意味では、今まで人生の経験があまりに少ない雪には、何事も経験と言えばそうなのかもしれない。

「二十四時間・・・あぁ、あれね」

「友奈さんのお家は、バリアフリーで、一番手すりが多くて、作業所と同じくらいで、皆が楽です。だからです」

「なるほどね。それに、女の子一人が男共の家に行くより親御さんも安心だ。何より、変に男女同数っていうのもあれだし、シュエの場合女の子限定ってわけでもないし、むしろ男の方が心配かも」

「へ?浩介さん?」

「何でもないよ。うん、どういう集まりか分かったから、シュエは安心して行ってきて。あぁ、当日持って行く手土産も用意しないとね。その辺は俺に任せてくれたら良いから」

「え、でも。浩介さんお仕事・・・」

「良いんだよ。こういう事ははじめにきちんとしておかないといけないし、何よりシュエはどんな物が良いか分かる?失礼にならない物、きちんと買えるかな?」

「それは・・・分からないです。知らないです」

「でしょ。だったら俺に任せて、ね?」

再び、赤星がニコリと形良く笑う。

それに引き替え雪は、胸を突かれたように顔を曇らせた。

何故彼が、手間をかけさせられるというのに笑うのかはやはり分からないが、彼の言う事はもっともだ。

雪一人では、手土産一つ買いに行く自信がない。

そもそも、手土産が必要だとも考えられないでいた。

僅かに肩を落とし、会話中止まったままの箸を思い出すよう茶碗を手に取る。

赤星の皿は、どれも空だ。

「えっと、えっとあの、ありがとう、ございます」

「そんな畏まってお礼を言われる事じゃないよ」

「でも、その・・・」

手土産を買うには、確実に彼の時間を割く。

そのうえ、このようなレトルトや冷凍食品の夕食であっても、その日は準備が出来なくなる。

洗濯や掃除もそうで、なにより赤星が働いている時間に自分は友人らと遊んでいる。

それを許してくれた事への感謝は、持つなという方が雪には無理だ。

上目使いに赤星を見つめる。

そして雪は、意を決したように頷いた。

「あの、行ってきます」

「いってらっしゃい・・・ってまだだし。それじゃ今すぐ行くみたいだよ?」

「え?え、えぇ、違います」

「だろ?だから今は良いんだよ。それにそんなに畏まらなくても良いんだって。いつも言ってるだろ?俺は、雪が楽しくて幸せで居てくれるのが一番。友奈ちゃん達とのお泊まり、楽しみなんだろ?だったらそれで良いんだよ」

「へ?・・・あ・・・はい、あのすっごく、楽しみです。やっぱり、ありがとうございます」

一瞬呆けた雪は、けれど次の瞬間にはパッと笑みを浮かべた。

赤星がいつも言ってくれている言葉。

それを忘れがちなのは雪の悪いところだ。

友奈達と過ごす時間が楽しみ。

きっと楽しい時間になる。

無駄にあった緊張がなくなり心が解れていくと、頷きながらやはりどうしようもない赤星への感謝を噛みしめた。

「よく分からないけど、まぁシュエが何か納得したみたいだからいいか」

「はい。浩介さん、好きです」

咄嗟に出た言葉に照れくささもない。

納得をした。

今与えられている物や環境がどこから来るのか、何故あるのか、今更ながらに納得をして雪は繰り返し頷く。

許しを得られたから赤星が好きなのではない。

いつも雪を優しく包み込んでくれるから、そういう人柄であるから、赤星が好きで、未だに好きな気持ちは増えるばかりだ。

手土産を持って行けば、それは誰が選び買ってきてくれたのか皆に伝えたい。

彼がどんなに優しく今日を行かせてくれたのかも、伝えられるのなら伝えたい。

少なくとも、雪の中でそれはのろけなどではなく、単なる事実だ。

考えただけで頬が綻ぶ。

箸をレンゲに持ち替え、上機嫌の雪は、もう言葉もなく食事を続けたのだった。



【一章完結】~二章へ続く

  

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