ヤクザものシリーズ・お礼用SS
(友奈のお家でお泊まり会・2章1)



日常生活を数日送ると、すぐに約束の日がやって来た。

赤星が買って来てくれた手土産の焼き菓子の入った紙袋を抱え、雪は彼の車から降りた。

「じゃぁまた、帰りに迎えに来るから時間分かったら連絡するんだよ」

「はい。分かりました」

「くれぐれも失礼の・・・いやシュエの場合は、挨拶ちゃんとね。「ありがとう」と「ごめんなさい」が言えたらそれで良いから」

「は、はい」

「じゃ、行っておいで。もう他の二人も来ているかもしれない」

「はい、いって、きます」

「いってらっしゃい」

住宅街の路上。

車の扉を開けたまま話していた雪は、赤星を眺めたままそろそろとそれを閉めた。

眉は、さも不安だと下がっている。

彼を見る眼差しも、どこか縋るようであったかもしれない。

肩には、今日の為だと赤星が買って来てくれた小型のボストンバッグ。

その中身も赤星が準備をしてくれ、着替えと部屋着、洗顔道具や携帯電話の充電器。

紙袋の菓子とは別に、仲間内で食べる用のスナック菓子もいくつか入っている。

それから、人工皮膚用の専用ボンド。

迷った末、今日雪は人工皮膚をつけて来ている。

町中に出向く予定はないが、友奈の家族と会うと思うとどうにも素顔のままでは来れなかった。

荷物は赤星が全て整えてくれただけに、忘れ物や間違いはないだろう信頼がある。

けれどそれらとは別問題で、緊張が不安を呼び、どきどきした。

窓越しに赤星と見つめ合う。

だがいつまでそうしていても雪は動かないと察したのかもしれない。

音の遮断されたその向こうで赤星が苦笑を浮かべると、片手を上げ彼は車を走らせた。

「あ・・・」

閑静な住宅街に、低いエンジン音が響き、そして遠のく。

取り残された雪は、見えなくなるまで車を見ていた。

「よ、よし。行かないと」

周りに見えるのは、戸建ての住宅ばかり。

コンビニエンスストアもバス停も、駅も当然見えず、行き先は一つしかない。

道路から振り返り、幸島の表札のかかる家を眺めた。

太いパイプの柵で出来たシャッターの奥には車が三台止められる駐車場で、今は二台駐車されている。

元からそうであったのか友奈の為にそうしたのか、鉄製の門から続くのは石畳のようなスロープ。

大きな門構えのそこに建つのは、三階建てらしき洋風の建物だ。

「・・・おっきいよね?」

雪は個人宅など、自宅でもある赤星の家しか入った事がない。

自宅の周辺はマンションが多く、戸建ての家があったとしても、目の前のそれ同様の大きさだ。

だが森の木作業所の周りの民家はそうではないし、赤星と出会う前に居た組織は各地を転々としていたが、どこにいってもこぢんまりとした家しかなかった。

その為、赤星の家の周りの民家も、友奈の家も、大きい部類に入るだろうとはどことなくわかった。

「・・・よし。よし押すぞ」

紙袋の中身は焼き菓子で特別重いわけではないが、ただ持ち続けるならばやはり無視の出来ない重みはある。

顎を上げ、家のてっぺんを見る。

それから二台止まる、真っ赤と真っ白の車を見て、そしてインターフォンを見た。

車から降りた時点で、約束の時間の二分前だった。

もう、過ぎているだろう。

遅くなればなる程友奈は黙っていない筈だ。

もう一度自分自身に頷く。

そして何も握っていない筈なのにやけに重い腕を持ち上げ、目を瞑るとインターフォンを押した。

「お、押した・・・」

まるで金のベルを鳴らしたかのような音が、周囲に響きわたる。

何も、行きたくないわけではない。

友奈も皆元も野田も、気心が知れている仲間だ。

けれどこの先は、友奈の家は未知の空間だ。

目を瞑ったまま暫し待つ。

知らない人が対応に出ればどうすれば良いのかも考えていなかった。

友奈の母親とは、映画館へ行った時に顔を合わせている。

だが父親とは――そう、考えていた時だ。

プッと小さな音がし、インターフォンの機械から声が聞こえた。

「シュエ、遅かったじゃない。もう皆来てるのに」

「・・・あ、友奈さん」

「悪いけど迎えに行けないから、勝手に入ってきてくれる?玄関で待ってるから」

「え?へ?あ、はい――ぁ」

言うやいなや一方的に切られたのか、ブツッと音がしたかと思うとそれ以上友奈の声は聞こえなかった。

「ここから入って、玄関・・・あそこ」

車いすの友奈にわざわざ迎えに来てもらうのは気が引け、それ自体に不満はない。

だが勝手に入るというのは、いくら許可が出ていても、どこかいけないもののような気分になってしまう。

今からこのような調子では、この先が思いやられる。

「よし」

もう、後には引けない。

引く理由も、本来はない筈だ。

胸の鼓動が自分の耳に届く程打ち鳴らされる。

緊張ではちきれそうなそれをなんとか抑え込み、雪は空いている手でそっと、鉄の門を片側押し開けたのだった。


  

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