ヤクザものシリーズ・お礼用SS
(友奈のお家でお泊まり会・2章2)



友奈の家は、赤星と雪の家とはまるで違っていた。

玄関を入ってすぐからそれは明白で、驚きのあまり土間で立ち尽くしてしまった程だ。

「いらっしゃい。……何してんのよ、早く入りなさいよ」

「あ、あぁ、はい」

「もう皆来てるわよ。リビングでねぇ、お茶飲んでる」

「お、お茶」

「だから早くしなさいって」

「は、はい。ごめんなさい」

車椅子に乗った友奈が立ち尽くす雪を見上げ苛立ったような声をあげる。

毎日のような、昨日もあった、日常だ。

普段ならばそれで弾かれたように動く雪だが、今日は返事を返しても身体は迅速に動いてくれない。

靴を脱ぎながらも当たりを見渡し、つい手も足も動きが疎かになる。

元々同時に二つの事が出来ない雪なので、視線に意識を奪われてしまえば、手足が動かないのは当然と言えば当然だ。

「何してんのよ。なに、見てんのよ」

「お家……友奈さんみたいです」

「は?何よそれ。家が私みたいとかわけわかんない」

「えっと……えっと、あ、キラキラしてて、えっと、可愛いです」

入って直ぐの土間のタイルはレンガ風。

壁紙はオフホワイトの花柄地模様。

靴箱は濃い茶色で天井まで届く程高く、取っ手は金色で細かい細工が繊細な印象を与える。

反対側の壁には大きな、威圧感すら与える楕円型の姿見で、こちらも金属の細かく繊細な細工、そしてイミテーションストーンが無数にはめ込まれていた。

そして何より、ふと見上げた天井には、金と白の小さなライトが幾つも周囲を取り囲むシャンデリアが吊り下げられていた。

以前、人口皮膚の工房で見た物よりは幾分小さい。

だがまさか、個人宅のそれも玄関にあるなどとは、雪の想像の範囲外だ。

何とか靴を脱ぎ、玄関へ上がる。

それでも顎を上げてシャンデリアを見上げる雪に、友奈はため息交じりにその袖を引っ張った。

「玄関なんてどうでも良いじゃない。リビングだって私の部屋だって、もっと綺麗にしてるんだから」

「そうなんですか。見たいです」

「でしょ。だから早く来なさいよ……あー!あんたアレ付けて来てる!何でよ」

それまで雪の袖を引っ張っていた友奈は、声をあげると同時にその手を雪の顔へと伸ばそうとした。

反射的に一歩後退さる。

たったそれだけで、車椅子の為容易に身動きの取れない友奈から逃れる事が出来ると、雪は手にしていた紙袋を胸の前で抱え、身を守るようにした。

「と……取らないで、ください」

「何でよ!私、それ嫌い」

「だって……」

「外なら仕方ないなって諦めてあげるけど、家の中じゃない。何でそんなのつけるのよ。よそよそしくてムカつくんだけど!」

友奈が、車椅子を方向転換させ、雪に向く。

あからさまに不満げな表情の彼女が雪ににじり寄ろうとするので、壁際まで下がった。

友奈が人口皮膚を良く思っていない事も、その理由も知っている。

今日にしても、剥がしに来るだろう事も想像が出来ていた。

反論の言葉は用意をしてきており、咄嗟には出てこないそれを必死に口にした。

「ゆ……ゆ友奈さんが、嫌なんじゃないです」

「は?」

「皆元くんも野田くんも、嫌なんじゃないです」

「だったら何よ」

「ゆ、友奈さんのお父さんとお母さん……気持ち悪い、思われるの、嫌です」

「私のパパもママもそんな事言わないわよ」

「でも……でも」

人柄がどうであるとか、人格がどうであるとか、それと雪が顔を見せられるかは別問題だ。

長年培って来た負の思い出は大きい。

気心の知れた友奈、その両親。

けれど彼らは他人だ。

「友奈……さんは良いです。怖くないです。でも、ごはんとか食べるのに、悪いです」

「何よそれ……でも、どーせ取らないんだもんね、シュエは」

「ごめんなさい……」

「謝るくらいなら取りなさいよ」

「ごめんなさい」

じっと友奈の視線を感じる。

紙袋を抱えたまま、顔はどんどん下がり俯く。

すると小さなタイヤの音が聞こえ、友奈の車椅子は雪に背を向けた。

「皆元くんも野田くんも隠せないのに、シュエだけずるーい」

「あ、あの」

「狡い。付けてて良いけど、それ覚えておきなさいよね!」

「……あ」

「行くわよ。いつまでも玄関に居たら皆心配しちゃうでしょ」

「は、はい」

言い捨てると、友奈は車椅子を押し玄関とは逆、廊下へ向かった。

納得はしていないようだが、諦めてはくれたのだろう。

もう雪を振り返らず廊下を行く友奈を追う。

やはり友奈は友奈だ。

今雪がここに居る理由そのものである気がした。

「お、お菓子、持ってきました」

「美味しいやつ?」

「多分……浩介さんが買ってきてくれたから」

「だったら仕方ないわね。早く来なさいよ」

「はい」

紙袋を抱えたままパタパタと小走りになる。

安堵感を得た雪は、口元に笑みを浮かべていた。
  

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