ヤクザものシリーズ・お礼用SS
(友奈のお家でお泊まり会・2章4)



夕食が済み、食後のコーヒーも楽しみ、ようやく友奈の部屋へ移動となった。

友奈の部屋は三階立て一戸建ての一階の奥、レールのないバリアフリーの引き戸向こう側。

赤星と雪の寝室よりも広く感じられるそこが、友奈の部屋だ。

「わぁ。・・・予測通りっていうか」

「んー。女の子の部屋ってどこもこんなもん?」

「違うだろ。たぶん」

「何よ、うるさいわね。わざわざパパにローテーブル運んでもらったのに」

「わぁ・・・」

入ったばかりの場所でぼそぼそと囁き合う野田と皆元に唇を尖らせながら、友奈が部屋の奥へと入っていく。

彼らに続くように部屋をのぞき込んだ雪もまた、そこで立ち尽くした。

玄関もリビングも新鮮な印象だったが、ここ程ではなかっただろう。

友奈のイメージにピタリと合い、野田が想像通りだと言うのも頷けた。

真っ赤なカーテンにはフリルとレースが施され、アイアンの細工が施されたベッドはパイプもシーツも白。

椅子のないデスクも白で、テーブルライトや文具雑貨はピンクが目に付く。

壁際には天井まで届くクローゼットの扉。

そこも含め壁も白だが、ただの白ではなく金糸の模様が入ったような壁紙だ。

室内照明はシャンデリアでこそなかったものの、ステンドグラス風の傘にチェーンの飾りがいくつもついている。

「適当に座ってね。皆元くんはベッドで良い?私もだけど」

「良いよ。床、座りにくいし」

「だよね」

友奈が車椅子をベッドサイドに寄せる。

膝の上に抱えていた物をベッドへと置くと、馴れた手つきで車椅子からそこへ降り腰を下ろした。

フッと息を吐く。

力を抜いたようにそうする様を見る限り、車椅子もなかなか窮屈なのかもしれない。

友奈に続くよう、杖をつきながら皆元がベッドへ向かい、彼女と出来る限り距離を開け端に座った。

「やっぱ、親居ると気ぃ使うよねぇ」

「お前が言うか」

「私がって事じゃないけど、皆が」

「まぁ、そりゃ一応ね」

「でしょ。でももう、顔合わせないと思うから。親の部屋は二階だし、お風呂もトイレも上にも下にもあるから。パパが帰ってきてご飯食べて、十時くらいかな。そしたら二人とも二階上がっちゃうし」

ガサガサと音を立て、抱えてきたビニール袋を友奈が漁る。

それを眺めながら、雪は野田と揃って折り畳みタイプのローテーブルの前に座った。

皆元同様床に座る事の出来ない友奈の部屋に、元々このテーブルはないのだろう。

木製の天板と足を持つそれは、折りたたみタイプながら重厚な印象で、原色を基調としたような友奈の部屋には少々アンバランスだ。

「オレンジジュースと、コーラ。後紙コップ。ね、これで部屋から出ないで済むでしょ」

「そういう問題か?」

「そりゃ、一々ジュース取りに行ってたり、コップ変えに行ってたりしてたら面倒でしょ?あ、トイレぐらい?」

「出来るだけ動きたくない気持ちは、凄く分かる」

「でしょ?私もまた車椅子乗るのなんか面倒」

皆は皆、それぞれの苦労があるようだ。

ベッドに腰掛ける組の二人を眺める。

そうして、雪がようやく思い出したかのように持ってきたボストンバッグを肩から降ろし、ファスナーを開いた時だ。

それまで皆元と話していた友奈が、僅かながら声を高くした。

「で、そういう事だから、シュエ。早く取りなさい」

「・・・へ?」

「またいきなりだな・・・こいつのペースも考えてやれよ。何かしてたから、話し聞いてなかったと思うぞ?」

「あの、何ですか?」

バッグの中から、スナック菓子を取り出す。

手土産はあくまで手土産で、どちらかと言えば友奈の両親への挨拶の為だ、と赤星が言っていた。

だがこちらは、皆で楽しむ為だけのもの。

数種類のスナック菓子が入ったコンビニエンスストアの袋を、ローテーブルの上に置く。

そうしていると、皆の視線が雪へと集まっていた。

「だから、もううちの親と顔を合わせる事もないんだし、それ取りなさいよ、って」

「それ・・・え?これ、ですか?」

「他に何が、シュエから取れる物あんのよ」

「えっと・・・」

咄嗟に、手が左顔にいく。

そこにあるのは、顔を合わせた途端引っ剥がされそうになった、人工皮膚。

友奈が示す物も、それで間違いなさそうだ。

「シュエ、ほっとけ。どうせこの距離じゃ手出しされないし」

「あの・・・」

「何よ。別に悪意で言ってるんじゃないもん」

「そうじゃなくてな。友奈だって、今すぐすっぴんになれって言われたって無理だろ」

「だって・・・お化粧は女の子の身だしなみだしぃ・・・」

「シュエも一緒だっての」

野田が、半ば呆れたように言う。

いつものやりとり。

友奈の要求がいつもの事ならば、野田や皆元が雪の代わりに代弁をしてくれるのもいつもの事だ。

しかし、今は違う。

友奈と野田のやりとりに割って入るよう、雪は細い声を放った。

「あ、あの。と、取ります」

「え?ほんと?」

「無理すんなよ」

「無理、ないです。えっと・・・あの・・・苦しく、なったから」

人工皮膚は専用のボンドで貼り付けている。

専用というだけあり、肌が荒れたり痒みが出たりとする場面は少ない。

だが、肌も呼吸をしている。

その肌呼吸を顔の半分塞いでいるのだから、時間が経てば苦しくなってくる。

先程までは感じなかった。

しかしこのいつもの顔ぶれだけになったからか、その途端顔に違和感を感じ始めていたので、むしろ望んで取りたいくらいだ。

「苦しい?そんなもんなんだな」

「はい。えっと・・・顔・・・あの、洗面台で・・・」

「よし、分かった」

「友奈さん?」

友奈が、もう乗りたくないと言っていた車椅子に手を掛け、そこへ移る。

呆然とるす雪に、友奈はスライド式の扉へと車椅子を請いだ。

「案内してあげる。ママにも会わないようにしてあげるし、私だって化粧落とせば良いんでしょ」

「友奈さん・・・」

「友奈にしては珍しく気にしてんだ?」

「ほんと、珍しいね。野田の言葉受け入れるなんて」

「違うわよ。私だって、お化粧だってね、ずっとしてたら疲れるんだから。付け睫だって重くなるし、それだけ!行くわよ、シュエ」

「あ、はい」

テンポの速い会話に、ついていけない。

だが友奈が。

どこかいつもと違う事だけは、どことなく分かる。

不思議そうにしながらようやく立ち上がった雪を残し、友奈は先に部屋から出ていく。

その後ろでは、野田と皆元が苦笑を浮かべており、雪の疑問はますます深まった。


  

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