ヤクザものシリーズ・お礼用SS
(友奈のお家でお泊まり会・2章5)



喋ったり菓子を食べたり、たまたまつけたテレビ番組に見入ってしまったりと、結局件のDVDを見始めたのは深夜になる少し前だった。

一話がそのままストーリー上の一時間となっている手法。

複雑な人間関係と、複数の場面。

そのうえブレのある画像と折り重なり、二話を見終わった時には既に、雪の頭の中はいっぱいいっぱいになっていた。

「あ、あの・・・きゅ、休憩」

「駄目よ。休憩したら忘れちゃう」

「よく、分からない・・・です」

「何よそれ」

ベッドに腰掛け友奈が唇を尖らせる。

背もたれもなく座って居られないと、隣に居た皆元は足をかばいつつベッドにもたれるよう座っていた。

「シュエには難しかったんじゃね?」

「顔ひきつってる」

「っていうか、真剣に見すぎだろ。もうちょっと気楽にみろよ」

ベッドに寄りかかる皆元が身を起こしローテーブルの菓子に手を伸ばす。

テーブルに肘をつく野田は、紙コップを片手に雪を振り返った。

どちらも苦笑したような呆れたような、そんな顔をしている。

「休憩なんかしてたら先に進めないでしょ」

「諦めろ友奈。どっちにしたって今日だけじゃ見終えられないし、シュエはぶっ倒れるだろ」

「オーバーヒートしそうだよね」

「な」

呑気に言葉を交わす野田と皆元の一方、友奈だけが不満げだ。

もっともそのようなシチュエーションは日常で多々ある。

ぼうっとその様子を、どこか客観的に見ていると、友奈は諦めたのかあからさまなため息をついた。

「もー。いいわよ。ちょっとだけね。早く続きみたいじゃない」

「だったら一人で自分のペースで見りゃ良いのにな」

「皆で見るのが良いんじゃない」

「だったら、これからは映画一本か精々二本くらいにしろよ。ドラマワンクール分は長すぎる」

「ワンクールっていうか、これ日本的に言うとツークールだしね」

「だな」

雪をよそに会話が進む。

自ら人工皮膚を外した雪は、これもまた自ら、自宅に居る時と同様にヘアクリップで前髪を上げていた。

散々に友奈に「鬱陶しい」と言われたあらと言うのもあるが、結局決断をしたのは雪だ。

雪の生々しい肌を見ても、此処にいる誰も、何も言わない。

「これからはファミリー映画の方が良いかもね。今からでも変えたら?俺は別に良いし、友奈なら何か持ってんじゃない?」

「そりゃ・・・映画のDVDくらい何本かはあるけどぉ・・・」

「あ、あの・・・トイレ、トイレ行って、来ます」

あまりの目まぐるしいドラマを二時間弱見続けてフラフラする。

そのうえ友奈達のテンポの早い会話についていけそうにない。

頭や視線から来るものなのか身体までふらつきながら、テーブルに手をついて立ち上がった。

普段ならば大抵、既に眠っている時間の為眠気もあるのだろう。

おぼつかない足取りで立ち上がり、友奈の部屋から出ていく。

トイレの場所は教えて貰っており、不安はない。

深夜より早く友奈の両親は二階へ上がったと聞いていた通り、一階の廊下から玄関まで照明は消されていた。

ただ足下のライトだけが、センサーを感知したのか廊下に出た途端灯された。

周囲を明るく照らす程のものではない。

ほんのりと薄暗く、けれど足下だけは確認出来る、そういった明るさだ。

玄関と友奈の部屋の中間にあるトイレに、引き戸を開けて入る。

そこもまた友奈仕様・車椅子仕様となっている為、内部はバリアフリーで手すりもあり、広々としている。

廊下とは違い煌々と明るいそこで用を足し終わる。

それでもぼんやりとした頭が晴れ渡らないまま、手を洗い廊下へと出た。

だが、その途端だ。

「キャッ」

「え?・・・ぁ」

廊下には、雪が出るまでに既に足下ライトが灯っていた。

そしてその向こう側で一人の女性が、友奈の母親が、小さく悲鳴を上げた。

それを聞いた途端だ。

あれ程ぼんやりとしていた雪の頭は、咄嗟に覚醒をした。

彼女の悲鳴。

雪の、あげられた左顔。

「あ・・・あの」

「・・・やだ、ごめんなさい」

胸が、ズキリと痛む。

ただでさえ、化け物だお化けだと言われている。

それが、このような薄暗い中で顔を見られれば、相手はどう感じるだろう。

仕方がない、もう馴れている。

だがそれでも、やはり胸は痛い――と思ったのもたった数秒。

「もう、やだ。喉が乾いてお水を飲みに降りて来たんだけれど、人が居てびっくりしちゃった。主人は上で寝ているし、友奈は視線が低いでしょ?寝ぼけていたのね、お客様がいらしているって忘れちゃってたみたい。ごめんなさいね」

雪が言葉らしい言葉を発する前に友奈の母は、明るく言った。

想像を、していた物と違う。

彼女のそこに避難の色は感じなかった。

「あ、あの・・・」

それだけなのか。

それだけ、なのだろう。

人の嫌悪感には敏感であるつもりだ。

そうでなければ辛い目にあう場面の増える生活があまりに長かった。

だからこそ分かる。

彼女から嫌悪感は、まるで感じない。

いっそ照れくさそうに笑うばかりだ。

「じゃぁ、おやすみなさい。シュエくんも足下気をつけてね」

「あ・・・あ、はい」

友奈の母はやはり友奈の母であり、友奈が当初言っていた通りの人物のようだ。

ただ薄暗い中で雪の顔など見えていなかっただけかもしれない。

人相の判別はついても、左顔にまで気が向かなかっただけかもしれない。

けれどそうだとしても、あれほど苦しかった筈の胸が、暖かくなった。

小さく手を振り、彼女は階段へ足を向ける。

それを暫し眺めた雪は、けれど薄暗がりの中取り残された恐怖を感じ、慌てて友奈の部屋へと戻っていった。
  

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