ヤクザものシリーズ・お礼用SS
(最後の夜に)



明日、工場は潰れる。

初めからそう宣言をしていた、藤波の思惑通りに進んだ。

工場の隣りに建つ、プレハブ造りの倉庫兼寮。

その二階の角部屋で、颯馬は荷造りをしていた。

社長はまだ諦めていないようで、今日暴行を加えられた時もそのような事を口走っていた。

だが颯馬には到底そう思えない。

どうしたところでもう、この工場は潰れる。

借金のカタに藤波の所有となり、そして跡形も無く解体されるのだろう。

元々少ない家財をゴミ袋に詰めていく。

この倉庫にしたところで、中身の確認もせず重機で解体されるかもしれない。

それでも自分の荷物をそのまま放置して出て行く気にも、颯馬にはなれなかった。

食器類や日用品。

衣類も、ゴミ袋に詰める。

「・・・こんな、ものかな」

持ち出す紙袋の中には、全財産の数万円前半。

それから、無責任になりきれなかった自身が負っている借金関係の書類。

行くあてをなくし、明日の今頃どう過ごしているかも皆目見当もつかない。

使い古した衣類も捨てていくと決めた身でありながら、背負った物を捨てられなかった。

それは、颯馬が生[せい]を放棄出来ないのと同じ理由だ。

生きなくてはならない。

それが罪であるから。

借金も同様で、生き残った自分への、罪だ。

がらんどう同然となった部屋で、颯馬は辺りを見回した。

あるのは備え付けの台所と、ちゃぶ台と薄い布団。

それから、空になった衣装ケースとゴミ袋二つに、持って行く紙袋が一つ。

そしてちゃぶ台の上に唯一置かれた、黒い小ぶりのビニール袋。

「・・・ぁ」

今まで存在を忘れていたそれを目にとめると、足を投げ出し座っていた体勢から身を起こし袋を手に取った。

夕方、藤波に渡された物。

ドラッグストアの店名がプリントされた、ビニール袋。

口を留めているテープを、片方しかない手で開ける。

中を覗くと、そこには傷薬や絆創膏や痛み止めが入っていた。

「わざわざ、持ってきてくれたんだ・・・」

最後に会った時、丁度颯馬が社長室から出てきたばかりだった。

散々に殴られ、犯された。

衣類の上から見える場所だけでも傷だらけであった颯馬を覚えていたのだろう。

それから数日経ってはいたが、毎日のように暴行を加えられていたので生傷が絶える事はなかった。

「・・・持ってきて、くれたんだ」

颯馬から全てを奪うと言った男が、傷を負った颯馬の為に。

その真意はどこにあるのだろうか。

藤波という男を深く知らない颯馬には、判断など出来ない。

暫し袋の中を眺める。

颯馬の両親を恨むヤクザが持ってきた物。

そこに安全の保証などはない。

けれど、藤波が言っていたから。

妙な物など入っていないと言っていた言葉を、何故か本心だと思えたから。

颯馬は、ビニール袋を畳の上に置くと、傷薬と痛み止めを取り出した。

「もしこれに毒が入ってたって、別にいいよ・・・」

自らが選んだ死でなければ、死んでも構わない。

もしもそれが安全な物で、傷の痛みが無くなるならば嬉しい。

どちらに転んでも、今の颯馬には楽になるだけだ。

「水・・・コップも、捨てちゃったっけ。手ですくえるだけで良いか」

重い足を引きずり、立ち上がる。

紙のパッケージから取り出した錠剤を手のひらに、颯馬はシンクへと歩いていった。


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