ヤクザものシリーズ・お礼用SS
(友奈のお家でお泊まり会・2章6)



雪がトイレから戻った後、上映会の後半戦はコメディー映画を見た。

ホラー風味の、一応はファミリー物だ。

初めのアクション映画よりも展開は緩やかで落ち着いて見れた。

ホラーの中に笑いがあり、おどろおどろしさがありながらも恐怖心は少ない。

以前映画館で見た団地を舞台にした和製ホラーよりもずっと楽しめた。

ただ雪にはアメリカンジョークもブラックジョークも上手く理解出来ず、思考が置いていかれる場面は少なからずあった。

元々家族愛や両親の愛情から遠いところで育った雪だ。

映画の中で描かれる、日本のファミリードラマでは見ない一風変わった愛情表現をどう受け止めて良いのか分からず、皆が笑う中雪だけが反応出来ないでいる。

そうして、とりあえず楽しかったという感想で見終わると、その作品の続編もあると友奈は言うは一作目を見終わった頃には時刻は明け方になっていた事もあり、彼女一人が不満そうにする中、雪を含む男性陣一致の元上映会はお開きとなった。

「ここ出てすぐ隣が客間だから。ベッド二つしかなくて、悪いけど誰か下に敷いてるお布団で寝てね。シュエ、シュエが布団で良いんじゃない?」

明け方近くまで一つの部屋で過ごしていたとはいえ、女性の実家で、女性の部屋に男三人が寝るのはよろしくない。

そもそも広いとはいえ友名の部屋では男三人が寝るには狭すぎる事もあり、彼女の母親が事前に客室をセッティングしてくれていた。

「はい、あの、僕がお布団します」

「そうして。でもお布団だって、おばあちゃんがリクエストした羽毛入りの気持ち良いやつだから」

「う、もう。楽しみです」

「悪いな」

「ごめんね」

「わ、悪くないです。楽しみです」

足の悪い皆元は床での生活が困難だ。

片腕の野田も、椅子生活の方が楽だと言っている。

だが友奈に言われてから思い出したのは、雪は真っ当な「布団」で寝たことがない事だ。

赤星と暮らしてからは自宅でも宿泊先でもベッド。

それ以前は、布団などという贅沢な物もない毛布一枚に包まって寝る生活だった。

テレビでは見た事のある布団。

楽しみが徐々に募っていき、「うもう」が何かも分らないまま誰にともなく繰り返し頷いた。

「じゃ、おやすみぃ」

「おやすみ」

「おやすみ」

「おやすみ、なさいです」

さっさと手で足をベッドに上げる友奈に野田と皆元がおざなりに挨拶をし、雪だけが深々と頭を下げる。

部屋を出て行く二人の後を追い、彼女の部屋を出ると静かにスライド式の扉を閉ざした。

扉が壁に当たるコトンと小さな音がすると、それに被せるようにカラリと音を立て野田がすぐ横の扉を横に開けた。

廊下の突き当たりに当たる友奈の部屋に対し、客間は廊下右手に儲けられている。

扉を開けた手で野田が壁にはめ込まれている室内灯のスイッチを入れた。

「わぁ・・・」

「なんか、流石って感じ」

「でも何ていうか、修学旅行みたいだな」

「寝床のぎっしり感?」

「たぶん」

友奈の部屋よりは一回り狭いそこに、左右の壁にそれぞれ寄せられるようにシングルベッドが二つ。

これまで見てきたどの部屋にも見合う内装で、オフホワイトに地模様の花柄の壁。

ベッドも中央壁際に置かれたサイドテーブルもアンティーク調の木製。

そこに掛けられているクロスとベッドのシーツは揃いのようなワインレッドに金色の縁飾り。

赤星と泊まるシティーホテルをも思わせるビシリとしたベッドメイキング。

そしてその間に、見るからに柔らかそうな布団が敷かれていた。

「これが、うもお……」

「どっちで寝る?」

「どっちでも」

「じゃぁ俺こっち行くわ」

「うん。シュエ、僕達だけベッドで悪いね。気、使ってもらっ……」

「皆元、シュエが気を使うとか配慮とか出来るわけないだろ。シュエの場合ただ本気で……」

背後で野田と皆元がぼそぼそと何かを言っている。

だがそれをきちんと聞き取れない程、目の前に広がる布団に雪は気をとられた。

布団の上にペタンと座る。

「わぁ……気持ち良い」

肌触りがたまらなく良い。

初めての布団。

白地に薄いピンクの模様が画かれたそれは、この部屋の中で特別に見える。

いそいそと枕元に上がると、上布団を捲り敷き布団の中へ潜り込んだ。

「うもお、気持ち良いです」

全身を布団が包み込む。

柔らかい敷き布団が床の上だというのにそれを感じさせない。

「……ほらな」

「うん……僕達も寝ようか」

「だな。こんな時間まで起きてたの久しぶりだ」

「僕も……です」

布団は軽くて暖かい。

楽しい疲れがどっと押し寄せたようだ。

皆元がベッドに上がり、野田が電気を消すという声が聞こえる。

だがその頃にはもう、雪は夢の中へ引かれていた。

  

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