ヤクザものシリーズ・お礼用SS
(颯馬の映画事情)



*「須く・後編」の後のお話です。ご注意を。



週末の夜、颯馬はソファーに背を預けて座りテレビを見ていた。

普段大抵はただ退屈凌ぎに見ているだけだが、今はそうではない。

食い入る眼差しで大型テレビを眺めている。

「やっぱり、好きだなぁ。このシリーズ」

映画のロードショー。

三週連続で放送されたのは、今週末からシリーズ新作が公開される洋画のSFだ。

シリーズ当初から話題のアメリカンヒーローもので、颯馬も一作目と二作目は映画館で見た。

しかし三作目、現在テレビで流れているこの作品は、公開が丁度三年前。

大事故が起こり半年と経たない頃で、それどころではなかった。

その後も、いくら好きなシリーズでも思い出す事はなく、他の作品であってもレンタルビデオを借りる精神的・経済的余裕もなかった。

「かっこいいな・・・」

それを、こうして新作の公開、それまでのシリーズの放送とあり、好きだった気持ちを思いだした。

それだけ精神的に余裕を持てるようになったのだろう。

前作の地上波初放送。

見られなかった作品とあり、これだけでも嬉しい。

嬉しい、のだが。

「・・・明日から、公開か」

今見ている物を好めば好む程、新作も見たくなる。

けれど颯馬は、それを気楽に口に出来なかった。

颯馬が行う事に関わる資金は、たとえどんな些細な物でも藤波の財布から出る。

微々たる颯馬の財産を使わせてもくれない。

それを理解しているからこそ、自ら娯楽を望めなかった。

「最近はすぐDVD出るし、レンタルもするだろうし・・・」

もっとも、それにしたところで颯馬は財布を覗かせる隙もないのだろうから大差がないと言えばそうだ。

身体的な理由と藤波の独断により、颯馬が一人で出かける事はない。

外出の時はかならず、護衛と言うべきか世話係と言うべきか、龍成会構成員の坂本が一緒だ。

そっと出かけてそっと用を済ます、というのは不可能だ。

映画はエンディングを迎え、スタッフロールもないままCMに切り替わる。

そうしていると玄関から物音と人の声が聞こえ、間もなくして廊下とリビングルームを隔てる仕切り扉が外側から開けられた。

「あ、克己さん。おかえりなさい」

「テレビを見ていたのか」

「はい。あでも、もう終わったので」

朝出かけた時とあまり変化のない藤波が、疲れを感じさせず部屋に入る。

帰宅時何人の構成員と居たところで、中に連れてくる事は無い。

一人きりだった部屋が、二人きりになる。

自然と頬が綻ぶ颯馬をチラリと見ただけで、藤波はダイニングチェアに掛けるようジャケットやベストを脱いでいった。

そうしてネクタイまで外し、藤波はシャツの襟元をくつろげながらソファーまで来ると颯馬の隣りに腰を下ろした。

「明日、出かけるぞ」

「僕もですか?」

「そうだ」

「分りました。あの、何処に?」

さも当然のように颯馬の腰を引き寄せる藤波に、されるがままとなる。

二人掛けだというのに倍は座れそうなソファーで身体を密着させると、薄い部屋着の上から腕のない身体の側面に藤波の熱を感じた。

「ここに行く」

「え?・・・何ですか?」

颯馬を抱かない手で藤波はスラックスのポケットから封筒を取り出し颯馬に渡す。

反射的にそれを受け取った颯馬は、封がされていない口を片手で開け、中に収まっている紙を取り出そうとした。

封筒を持つのも、内容物を取り出すのも片手でしているので、容易には叶わない。

けれど封筒からそれを全て取り出す必要はなかった。

口から数センチ紙の端を出しただけで十分、後は中を覗いただけでもはっきりと分る。

「・・・え、これ映画の・・・」

見間違える筈も無い。

内容物に描かれたロゴと、四の数字。

今し方颯馬がロードショーを見ていた映画の、見たいと思いながらも言えずに居た、新作の前売りチケットだ。

チケットを見て、藤波を見る。

唇が開きそうな程呆然とする颯馬に、彼は眉一つ動かさなかった。

「俺が見たくなった」

「克己さんが、ですか?」

「そうだ」

「ヒーローもののSFを?」

「俺がそれを見て何が悪い」

「いえ、悪いとかじゃなくて・・・」

ただ、意外だっただけだ。

テレビすら颯馬が見ている隣で眺めている意外特別興味を持っていなそうで、映画などDVDもロードショーも見ている場面を見た事がない。

颯馬を見もしない横顔を眺める。

藤波の言葉は、ストレートのようで裏がある。

言葉を言葉のままに取って良いのかそれとも。

もう一度手の中にあるチケットへ視線を落とし、次に顔を上げた颯馬は、腰を抱かれたまま少しだけ前のめりになると藤波の顔を覗き込んだ。

「・・・気まぐれ、だったりします?」

「そうかもな。何だ、颯馬が行きたくないなら・・・」

「いえ。凄く、見たかったんです」

分かり難い言葉の上で、更に「気まぐれ」だと本心を隠していく。

けれど今は、それでも少しだけ分るようになった気がする。

「ありがとうございます、克己さん」

藤波自身が見たいと、一応言っているチケットを大切にしっかりと掴む。

もう呆けてなどいない。

今はただただ嬉しくて、瞳が細くなり唇の端がつり上がる。

これが藤波という男の優しさだ。

ようやく颯馬を見た藤波もまた、ふと笑みを浮かべていた。





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