三城×幸田・お礼用SS
(秋人の悩み)



一月某日。

三城の実家の応接室にて、三城沙耶子と三城秋人はローテーブルを挟み神妙な表情で向かい合って座っていた。

ローテーブルの上にはすっかり冷めてしまった日本茶が入った湯のみが二つ、そして封筒が一つ。

「秋人。」

凛と通る声で静かに名前を呼んだ沙耶子の声には、僅かな怒気のようなものも感じられる。

だが澄ました面持ちからは感情を読み解く事が出来ず、秋人は内心ため息を吐いた。

父親は厳格な人物であるが、それ以上にこの母親には「勝てる」気がしない。

それは体力や知力で無いだけに、努力で上回る術のなく余計に厄介だ。

「ですから、何度も申し上げている通り・・・」

「私も何度も言っているでしょ?お相手が居るならきちんと連れて来なさい、と。」

「それは・・・」

意を決した反論も、全てを言い終わる前にかき消されてしまう。

いつもの事だ。

弱りきったとばかりの秋人は、テーブルの上に置かれた卵色の封筒に視線をやった。

この大きさの変形の封筒は珍しく、中身は聞かずとも想像が出来た。

「相手がいらっしゃるなら断ってくださって結構。けれど居ないなら、お見合いをして合わなかった時にお断りなさい。」

そう言われれば秋人は口を閉ざすしかない。

沙耶子の言っている事は筋が通っているし、そう思いこまされるだけの教育を受けている。

だがそれでも秋人は頷こうとしないでいると、沙耶子は奥の手だとばかりに必要以上に深いため息を吐いて見せた。

「これも春海と恭一さんの為なのよ?」

「春海の?」

なぜ今ここでいきなりこの二人の名前が出てくるのかと、秋人は眉間に皺を寄せる。

「うちが男三兄弟だという事は、周囲の方は皆知っているのよ。冬樹が結婚している事もね。お見合い写真を持ってくる方は『三城の誰か』『秋人か春海』でいいのだから、兄の貴方が断れば当然『じゃぁ春海に・・・』と言われるわ。これを春海に渡していいの?」

沙耶子はテーブルに置かれた封筒を秋人の方へずいと差し出す。

「恭一さん、どう思われるかしら。あの優しそうな子ですもの、嫌とは言わなそうね。」

恭一に会ったのは正月の一度だけなのだが、二人とも同意見で印象が良かったらしい。

「二人が結婚同然に生きていこうと決め、それを認めた私たちが、春海に見合い写真を送ったら・・・」

沙耶子はわざとらしく辛そうな声を出すと、片手を頬にやり首を振った。

春海が見合いを受ける受けないに関係なく、恭一は「やはり認められていなかった」と受け取ってもしかたがないだろう。

あのか弱そうな日本美人が、儚く涙するかもしれない。

「母さん、卑怯です。」

「あら、何処がかしら?私は『恋人を連れて来るなら見合いをしなくていい』『見合いをしても、断っていい』と言っているのよ?何が不都合があるのかしら?」

「それは・・・」

筋は通っている。

それは解っているが、此方の意見も聞いて欲しい。

だがそんな事を口に出来るはずも無く(出来るならとっくにしているだろう)、秋人は目の前の母を見据えた。

年齢よりも10歳以上は若く見える完璧な笑みを口元に湛えた沙耶子は、だが鋭く尖った瞳で秋人を見つめながら、駄目押しに封筒をもう一押し秋人の方へとやった。

流石は現役時代は「凄腕」と謳われた弁護士だけある。

この見合い一つに何か裏のやり取りがあるのだろうか、と秋人は勘繰らずにはいられないのだが、これ以上話を続けても不毛だと判断し、渋々とその封筒を手にしたのだった。



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