三城×幸田・お礼用S・S
(一時の幸福)



入社して数年。

新入社員の頃から出張は頻繁にあったし、部長職に就いてからは更に多くなった。

急遽予定が組み込まれた事ももちろんある。

だが今回は今までに無いほどのタイミングの悪さだ。

「恭一の祝いだっていうのに・・・」

三城は与えられいる個室の事務室で、一人きりなのを良い事に独りごちた。

この出張さ無ければ、花束とケーキを買って帰るなんていうベタな事もしただろう。

それどころか定時に会社を出て、プレゼントを買い漁ったはずだ。

何といっても今日は幸田の夢が叶った日なのだ。

最愛の幸田が、幸せを掴んだ日。

その日を共に過ごせないなんて。

エリートと言われようともサラリーマンはサラリーマン。

会社の指令に従うのは当たり前なのだが、幸田の為、それ以上に自分自身に区切りをつける為にも、ここはしっかりと祝いたかったというのに。

だというのに・・・・

「せめて一日ずれてくれていたら良かったのだがな・・・」

柄にも無い愚痴を零しながら、いつになく荒っぽくキーボードを叩き付ける。

バシッという重い音を遮るように、高いノック音が鳴った。

──コンコン

直ぐに入って来ない事を思えば、部下もしくはそうでなくても目下の者なのだろう。

「入れ。」

「失礼します。」

予想通り、一礼をし入って来たのは北原だった。

社内で三城の一番近くに居る人物だろう。

鋭利な美貌の持ち主で、いつもならキビキビと背筋が伸びているというのに今はどうした事か。

曇った表情で身体が強張っているようにも見える。

「部長、申し訳ありません。」

北原は三城のデスクの前に来るとスッと頭を下げた。

「何だ。」

「先方の手違いがあり、出発が明日の朝一番になりました。」

頭を下げたままの北原は、ハッキリとした口調で言った。

普段の三城はこういったミスにうるさいのだ。

小さなミスが大きなミスを呼ぶ、というのが持論だからだろう。

「・・・解った。」

だというのに今日は叱咤の一つ嫌味の一つもない。

今はこのミスに対する苛立ちが沸いてくるはずもなかったのだ。

そんな三城に北原は驚いたように目を開いたが、頭を上げるとそそくさと部屋を後にした。

「失礼します。」

パタリと小さな音を立て、開けられた扉が閉まる。

「明日の朝、か。」

再び独りになった三城は日本にしては高い天井を仰いだ。

神様はいるのかも知れない。

人生にそう何度も思った事のない戯言を脳裏に描き、三城は緩む頬を押さえるのが必死だった。



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