三城×幸田・お礼用SS
(花火大会・1)



まるでデ・ジャ・ヴだ。

新宿にあるお馴染みの高級シティーホテルの一室で、幸田は一度飲み込んだ息を深々と吐き出した。

全身の力が抜けてしまわないようにと必死に持ちこたえている幸田をあざ笑うかのように、背中でオートロック式の扉が無情な音と共に閉まる。

そもそも三城が待ち合わせ場所に此処を指定してきた時点で嫌な予感はしていた。

それでも「まさか」という思いが抜けきれず大人しく従ってしまったのだが、結局は幸田の予想はありがたくも大正解だったようだ。

入り口から数歩分だけある廊下を抜けた先に見える光景に、幸田はもう一度ため息を吐く。

「はぁい、きょーいちさぁん。お久しぶりぃ。」

幸田のうな垂れっぷりに気づいているのかいないのか、あまり広くはない室内に堂々と鎮座するベッドに腰掛けていた椎名は、彼以上に着こなす者は居ないのではないかと思われる派手な服装を纏い、女性のそれと見紛うばかりのほっそりとした指先をチラチラと振って見せた。

通称シーナと呼ばれるオネェマンなメイクアップアーティストは、三城の高校時代の友人で、クリスマスの日に幸田も一度だけ会っている。

芸術品のように綺麗にメイクされた彼の笑みが恐ろしく感じるのは、たった一度しか会っていないその時の出来事が出来事故に仕方がないだろう。

「し、いなさん。お久しぶりです。」

幸田は入り口に立ち尽くしたまま、ぎこちない愛想笑いを頬に貼り付けた。

「なぁに、そんな所に突っ立っちゃって。こっち来なさいよぉ。」

椎名の何処までも明るい声が幸田に向けられ、ようやく重い足を一歩踏み出したが、本能と言おうか頭の隅で何らかの警告音が鳴り響く。

本当は行きたくない。

回れ右をして立ち去りたい。

だが元来律儀な性格の幸田がさして親しくもない相手を無視など出来る訳もなく、椎名の待つメインルームへ渋々足を向けた。

「相変わらず綺麗ねぇ。ホント、日本人形みたい」

「いえ、そんな」

「貴方の方がよほど綺麗だろう」と内心思いながらも、視界に入ったモノに気をとられまともな返事が出来ない。

幸田の視界にダイレクトに飛び込んだ、椎名が腰掛けるベッドの上に丁寧に広げられたソレは、漆黒の闇を思わせる濃紫と儚げに咲き乱れる白い花柄が美しい浴衣だった。

言うまでもなく、女性物だ。

呆然とそれを見つめる幸田に、椎名はクスクスと楽しげな声を上げる。

「あらぁ、気にいってくれたかしらぁ?春海ったら凄ーく迷ってたのよぉ。きょーいちさんったら何でも似合うからって。」

「そんな・・・」

バカの一つ覚えのように先ほどと同じ返答を唇にのせ、青くなっていいのか赤くなって良いのか、幸田は椎名から顔を反らした。

(そりゃぁスカートよりはマシ、だけど。)

けれど女装そのものがイヤなのだ。

男なら持っていて当然の羞恥心と、それに伴う自意識過剰とも思える周囲の視線の痛さ。

以前の経験で、もう二度と女装なんて御免だと思ったというのに。

「さぁ、春海が来ちゃう前にさっさと終わらせちゃいましょぉ。それとも着替えを見られたいかしらぁ?」

「・・・いえ」

抗いたい、逃げ出したい。

だというのに、最愛の三城が自分の為に悩みぬいたという浴衣の存在が、幸田を力なく頷かせたのだった。



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